コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

クローズアップテーマ こんな場合にどうするか

第11回 ミスや問題を繰り返す職場を改善するためには、まず何をするべきか【大林 正幸】(2008/12/22)

2008年12月22日 大林正幸


 ある職場での例である。起票ミスのような単純なものから、顧客に損害を与えるかもしれないミスがたて続けにおこっている。勿論、担当者と承認者という役割分担はあり、内部統制としては整備されているといえるが、有効には機能していない。当事者は、なぜ、自分たちがミスをするのか原因が判らないらしい。かといって、その原因を当事者の個人的な性格によるものであるとし、単なる不注意として処理してもよいのだろうか。また、自分たちは気が付いていないが、擬似的な組織的共謀という罠に陥っている懸念はないのだろうか。

 冒頭の例は、内部統制が過度に厳格すぎて業務処理に支障をきたすために、意図的にルールを逸脱してしまっているというわけではない。内部統制機能を発揮できない原因が、当事者にもわからないという事例である。このような場合、その原因を本人達の意欲のなさや不注意、集中力の欠如であるとすることも可能だろう。本人達も問題に気がつかず、また、それを統制する機能を組織が備えているにもかかわらず発揮できないような状態である。このような場合に、どこに着眼するべきかを考えてみよう。

1.「刺激と反応」パターン 

 さて、私達は、学習して会得した経験・知識を再度活用し、日常の業務活動を繰り返している。一旦成功すると、同じような状況に遭遇したときには、その成功した経験を利用する(注1)。
 言い替えれば、過去の成功例に類似した事例に直面すると、十分な検討をすることもなく、このようなケースではこう対応するという「刺激―反応」のパターンを繰り返していることが多い。このようにすれば効率よく処理を行うことができるが、刺激を受けるごとに、個々に対して十分に熟慮して対応しているというわけではない。
 私達の行動は、環境からの刺激に対する反応として多くの場合が記述できる。外部から発信される情報が大量で複雑であればあるほど、「刺激―反応」パターンで対応しなくては間に合わない。しかし、大量・複雑であるがゆえに、日常活動において、「刺激―反応」のパターンの選択が問題解決にうまく適合しない可能性も高くなり、ミスが発生しやすくなる。これは、決して個人の世界だけ発生するのではない。むしろ、内部統制という相互牽制機能を持つ集団の意思決定として選択間違いを起こすということの方が、組織への影響は重要なのである。

2.「刺激―反応」パターンを統制する

 「刺激―反応」パターンを、うまく選択適用できない事態はどんな時だろうか。これには、少なくとも、階層的に三つのレベルで検討しなければならない。
 ひとつは、間違いを組織的にチェックできないなど組織全体で判断力が低下している構造的な問題がある時、二つ目は、所属する部門やチームが、一時的に判断力の低下が発生しやすい環境に陥っている時、三つ目は、時間的余裕がなく、多忙、業績への圧力、能力不足などの理由で、メンバー個人が意思決定自体をうまくできない事態がある場合である。

ヒューマンエラーを招く要因の排除



 これらの視点で「刺激―反応」のパターンの選択として、意思決定環境を点検することが必要である。先の例に戻ると、以下の点に留意して点検することが必要だ。(詳しくは、別の機会に紹介する。)

・組織構造レベル ⇒ このチームの仕事の成果が、組織全体にどのような影響を与え、自分たちに戻ってくるかという、組織のフィードバックシステムが機能しない可能性がないかを点検する。
・部門チームレベル ⇒ チームが過度に防衛的な行動をとりやすい状況にないか、または、無理して、過度なリスクをとりやすい状況にないかを点検する。例えば、トップや他のチームからの期待が感じられず、チームの存続自体が危惧される状況にあれば、チームは存続のために防衛的な行動から、否定的、批判的、消極的な行動を選択しやすい。
・個人レベル ⇒ 自分が正しい判断ができる状況かどうかを点検する。時間的余裕がない、過度なプレッシャーを受けているなどである。


(注)印南氏は、「人間はそもそも規範的な意思決定ができないために、経験によって発見された単純化された決定方法、すなわちヒューリスティックスを用いて意思決定している。(中略)ヒューリスティックスを用いて意思決定しても8割方問題がないとされる」と述べている(印南一路 [1999].『すぐれた組織の意思決定―組織をいかす戦略と政策』中央公論社)。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ