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第4回 社内通報制度を見直したい:見える、聞こえる、話せる 体質つくり 【大林 正幸】(2008/10/21)

2008年10月21日 大林正幸


1.変化する「内部告発」を取り巻く環境

 2002年、この年「内部告発」が流行語大賞になった。「内部告発」が、「密告」や「裏切り」という悪いイメージから社会正義へと変身した瞬間である。社会正義の具体的な実行活動として、むしろ、賞賛されるべきことと位置付けられた。2008年になっても、企業の不祥事は立て続けに発生している。これらの多くは、「内部告発」という手段で問題が公になった。「内部告発」の成功は、他の「内部告発」を誘発させることになるため、今後とも、連鎖的に不祥事の糾弾が起こる可能性が大きい。

 「内部告発」をとり巻く環境は変化している。バブル経済の崩壊後、身に覚えのない原因でのリストラにより転職を余儀なくされ、人生設計を変えなければならなくなった人も多かった。また、成果主義の導入により、単純な基準で、勝ち組、負け組みなどと分類する風潮が生まれ、社会人としての誇りをも否定された人も多かった。この結果か、労働の流動化が進み、特定の会社で働き続けることが当たり前の時代ではなくなった。派遣やパート・アルバイトなどの非正規社員による業務も増加し、彼らが重要な役割を任されることも珍しくない。会社と働く個人との関係は希薄になり、「会社のために働く」というよりも、「自分の幸福のために」や「会社よりも、自分の生活や社会のために」ということが優先され、「内部告発」はお世話になった会社への裏切りになるからやめておく、というような環境ではなくなってきた。

 このような状況にある経営においては、「会社への忠誠心」を社員に期待することは、間違った結果を招くものとして、見直さなければならないのだろうか。

2.社内通報制度への期待

 2006年に公益通報者保護法が施行された。「内部告発」をした人が不利益な取り扱いを受けないように保護する法律である。社会が「内部告発」に対して、公益のために不正行為を抑止する機能を期待していることを、法律で明確にした。
 「内部告発」の告発という厳しい響きを避け、もっと身近な仕組みとして「社内通報制度」と言う形で導入されている。「社内通報制度」は、現場で起きているコンプライアンス違反などの問題行為を、通常の組織階層を越えてトップ層に直接に伝える仕組みであり、問題が大きくなる前に芽を摘み、問題行為の発生を予防する仕組みである。

 「社内通報制度」は、昔に比べて会社と個人のつながりが希薄になる傾向があるなかで、組織のルールに制約されないコミュニケーション手段である。これは、従来からある、改善提案などのような会社の利益追求のためのものではなく、不正行為に直面した社員の悩みや葛藤の解決の窓口として、その役割は不正の抑止効果にとどまらない。トップ層にとっては、現場が「見える」、「聞こえる」仕組みであり、社員にとっては、「話せる」場の提供である。中には、誹謗中傷などの情報も混在するが、これも組織の実態を表している。つまり、通報を受ける機会を作るというよりも、通報者が本当に伝えたいことを聞き出せる環境づくりが、整備運用のポイントである。ダイヤルサービスという会社のように、窓口を作れない会社のために社内通報制度を受託する専門会社まで出てきた。

 「社内通報制度」に何を期待するのかが、改めて問われている。不正をする社員はいないと、社員を信頼するトップ層ほどこの制度に疑問を持つかもしれない。しかし、不正抑止の役割ばかりではなく、社員の声に積極的に耳を傾ける姿勢の具体化であり、また、社員を守る駆け込み寺でなければならない。社員への信頼を形であらわしたものが、「社内通報制度」であり、社内コミュミケーション戦略なのだ。

3.通報をうけたときにどう動くかがポイント

 一連の「内部告発」により発覚した不祥事では、最初から外部の新聞記者などのマスコミに持ち込まれたケースは少ない。社内通報で、一旦、トップ層に上がるのだが、その後の取り扱いに問題がある場合に不祥事は起こる。通報者の意を決した行動を、軽くみて、無視や隠蔽、通報者への圧力などという対応をすれば、通報者は振り上げたこぶしの行く先を、監督官庁やマスコミに向けざるを得ない。

 「社内通報制度」に不正の抑止力を期待できる会社は、通報に対して適切な対応ができる会社である。「社内通報制度」の仕組みつくりでは、通報があった時に、どのような対応を行うのかが決められ、その実行体制が必要である。大阪市では、大阪市公正職務審査委員会が、内部通報の受付窓口として設置され、委員会の指示により、監察部の公正職務担当が調査の実務に当たる。初動を迅速に行うことは、危機管理の根幹部分である。トップ層へのホットラインを作るともに、即時、事実確認の行動が取れる体制を備えなければ機能しない。

 社会的な存在としての会社の存続を優先するのか、逆に、個人の目先の利益を優先するのか、通報後の会社の対応を、社員は見ている。

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