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4-19.保健事業 成功の方程式

2007年12月11日 高橋 克己


 このシリーズでは、18回にわたって保健活動に関する健保組合等の取組み、新たな事業モデルや商品トレンド等を鳥瞰してきた。様々な取組みがあるのに問題が解決していないのは、それだけ根が深いということだ。「人は行動変容しない」とも言われるが、慣れ親しんだ生活習慣を改善するのは容易ではない。「血糖値」「腹囲」等のデータを突きつけても痛くも痒くもなく(実感が伴わず)、生活習慣を改める動機付けとしては甚だ弱いということだろう。
 一定の成果を上げている先進健保等は、「セカイ職産」の頭文字5つの特徴があった。

セ;セグメンテーションごとのアプローチ     ※詳細はコラム4-10参照
カ;家族を巻き込んだ取り組みの推進
イ;目標達成の共有化とインセンティブの付与
職;健康の重要性を根付かせる職場環境づくり
産;産業医、保健師、管理栄養士など専門職の強いコミットメント

 このうち「職場ごとに健康づくりの目標を共有する仕組み」を築くだけでも相当の時間がかかる。特定保健指導の具体策については様子見の健保組合もあるようだが、5年間の試行期間は長いようで、全社的な推進体制を構築するには短い期間である。

●成果第一

 特定健診・保健指導は健保にとって負担増であり、やるからには成果を上げなければならない。特定保健指導の点数は満たしたが、メタボリック症候群対象者は減らない等の事態は健保組合の望むところではなく、成果を出せない組合は経営手腕を問われよう。
 また、メタボリック症候群対策が健保組合の役割とされたことが、健保組合の社内でのステイタスは高まるだろう。翻れば、いずれは過労死問題(コラム4-11参照)をはじめ、健康管理の責任を負う戦略的位置づけとなる可能性もある。

●論より実践

 先進事例を見ても保健指導だけで成果を出しているわけではない。改善プログラム策定、実践(運動キャンペーン等)、事後評価のPDCサイクルにより様々なプログラムを組み合わせている。保健指導に厳しい印象のある米国の疾病管理においても、疾病だけではなく生活環境にかかる相談にまで幅広く対応し、対象者に合ったアドバイス・指導方法を探り当てるような重要なプロセスを確保している(コラム4-9参照)。
 注意しなければならないのは、健診データ・健康データの蓄積・分析や保健指導手法等の細部にこだわり過ぎないことだ。運動不足、不摂生で内脂肪が貯まっているのは本人が自覚している。データを揃えて、アナタは如何に自己管理力が弱いのかを説教するような保健指導では成果は期待できない。
 むしろ生活習慣の改善を実践するサービスや実践のきっかけを提供することが肝要だ。先進健保の多くが取り入れているウォーキングキャンペーンの他、保健指導対象者に低カロリー食を配食する取組み(コラム4-14参照)、簡易型フィットネスクラブの企業内設置(コラム4-6参照)等がきっかけとなろう。

●職場との連動

 一方で、保健指導の必要性が高いほど保健指導を受けたがらない、不規則な生活に確信すら持っている等の対象者もおり、本人の自覚を待つ以外に健保組合が手出しできないと諦められている。2割の不良原因が8割の不良品を作っているようなもので、健康不良児を解消しないと全体の成果が抑制される。
 自覚してくれない対象者には、半ば強制的にイベント参加してもらうショック療法も検討すべきだ。1~2週間の断食(ファースティング;リバウンドは少ないとされる)や東海道53次を実際に完歩する等の「イベント」(自覚のきっかけ)が必要だろう。
 先進健保の成功要因のひとつが「職場を巻き込んだ健康づくり機運の高揚」だ。本人が休暇を取って改善努力をすればよいと突き放さず、職場がエールとともに送り出してやる雰囲気こそが重要だ。この域に達するまで、健保組合や企業人事部が相当の努力をしなければならない。インセンティブ付きのイベント、成功例の宣伝等を連鎖的に行い、職場での健康管理機運を高めるとともに、運動や低カロリー食等を体験させる積極的な展開が決め手となろう。人手不足、ノウハウ不足はアウトソーサーを有効活用することで解決できる。
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