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カリスマ経営者後のリーダー像とは?
2008年10月31日 林信義
中小企業の後継者不足が近年問題となっている。中小企業の円滑な事業承継のための手引きとして、事業承継協議会から平成18年6月に「事業承継ガイドライン」が公表された。また、平成20年2月には「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律案」が閣議決定され、平成20年10月1日に施行予定となっている。事業承継円滑化のための総合的な支援策の基礎をなすものと期待されている。
1986年ピーク時には532.7万社を数えた中小企業数も、2004年では432.6万社にまで減少している(中小企業白書2006年版)。このうち、少なからず後継者難を理由に廃業に追い込まれた企業も存在する。55歳以上の経営者のうち、「事業を何らかの形で他者に引き継ぎたい」と思っている者は95.1%を示しているのにもかかわらず、後継者を既に決めている者は、そのうちの44.0%に留まっている(同上)。
中小企業にとって後継者の選定・確保の問題が、事業承継の難しさの一因であることが浮き彫りになっている。
幸いにも後継者が存在し、事業の引き継ぎを行うことができた企業においても次なる課題が存在する。先代経営者の後を引き継いだ経営者が社長の肩書は引き継いだとしても、経営トップとして組織をリードし、マネジメントする役割の引き継ぎができていないことがある。とかく、二代目経営者は先代の創業者の情熱や迫力に見劣りしてしまい、従業員や顧客の信頼を得られないケースがある。
創業者やカリスマ経営者の後継者にはどのような能力が必要であろうか。
先日、早稲田大学ラグビー部の中竹竜二監督にお会いした。5年の任期中、3度大学日本一に輝いたカリスマ監督と自他共に認める清宮監督(現サントリーラグビー部監督)の後任として中竹監督は就任した。
中竹監督の著書『「監督に期待するな』で自ら「日本一オーラのない監督」と書いているが、先代の清宮監督とスタイルは大きく異なる。
中竹監督が目指すスタイルはカリスマ性に頼らないリーダーシップである。フォロワーがリーダーの指示をただ待っているのではなく、リーダーが考えるように自らも考える。フォロワー達が自主性を持って組織を支えていくフォロワーシップの考え方をチームに浸透させていった。
カリスマ監督が発する言葉を待つ組織から「自分で考える組織」に変わるまで、部内、および部外からの批判に耐え続けたということだった。その後、選手達から勝つための提案や工夫が発せられた時には、目指した組織にチームが変わりつつある実感を掴んだということだった。中竹監督は就任2年目にして、「自ら考える組織」を率いて大学日本一の栄冠を手に入れた。
先代がカリスマであればあるほど後継者は先代との比較の対象となってしまう。就任当初は先代に勝る点などは評価されず、劣る点ばかり批評されてしまう。そこで自信を喪失し、自分を見失ってしまい、経営者の職務を十分に遂行できない状態となってしまうことがある。
カリスマ経営者の経営スタイルを踏襲した後継者は、同じスタイルで経営したとしても周囲の人々に伝わるものが全く違うものとなってしまう。カリスマ経営者の後任の「スモール経営者」との印象が残り続け、求心力の低下を招くことになる。カリスマ経営者後のリーダーには自らのスタイルを貫き、他人の評価に一喜一憂しない冷静さ、忍耐力が必要である。
経営者が自分の後継者を選ぶ際に、自らのスタイルをそのまま踏襲した後継者を指名し、会長に退くも、実権は握ったまま経営に影響力を及ぼし続けるケースがある。これでは円滑な事業の承継が行われたとは言い難い。先代と異なったスタイルで経営することを恐れず、先代との比較による批判に耐えることができる後継者を選ぶことによって、単なる肩書きの承継ではなく、事業の承継が可能になると思われる。事業の存続、発展を第一に考えた後継者選びが、カリスマ経営者の最後の大きな仕事の一つである。