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ブロードバンド事業の収益性と他関連事業へのシナジー分析・評価


▼▼▼ ブロードバンド事業の収益性と他関連事業へのシナジー分析・評価① ▼▼▼

背景

海外ブロードバンド事業会社E社(以下E社)は、ブロードバンド市場に新たな期待と事業面での有望な見通しを確信し、ITや通信、ネット(eコマース)分野などにおいて積極的なビジネスを展開。

しかしながら、IT・ネットに限らず、同国及び海外の昨今の経済情勢などマクロ面での見通しの不透明感も手伝い、なかなか現下の閉塞状況を打開できない厳しい現実もある。

E社においても、ブロードバンド関連のコア事業の立ち上げ期と重なり、あるいはこれまでのネットビジネスなどへのリターンそのものやリターンの収穫時期やのずれなどもあり、現在の事業面及びファイナンス面に関する事業環境は予断を許さない。


スピーディーかつ矢継ぎ早に展開されるE社の事業そのものについての、同国の金融機関や証券アナリストなどの理解は十分追いついておらず、またどのように評価してよいのか考えあぐねている状況にあった。

ブロードバンド時代を勝負とみて戦略事業をさらに推進するには、企業の運転資金やさらなる投資マネーなど、ファイナンス面での継続的な施策をとり続けることが不可欠であり、これまでの型に納まらないE社という企業をあらためて測る(あるいは市場と社会に認知至らしめる)ことが、同社には喫緊の課題となっている




【図表】 海外ブロードバンド事業会社E社におけるコア事業の現状と今後の行方

(注) 「海外ブロードバンド事業会社E社」:イタリアのe.Biscom社および米国のGrande Communications社の両者を合わせた架空の事業者のこと。
(出所) 日本総合研究所 ICT経営戦略クラスター作成[2002年9月]


▼▼▼ ブロードバンド事業の収益性と他関連事業へのシナジー分析・評価② ▼▼▼

SWOT(自社の強み・弱みと市場環境の機会・脅威)で見る、2000年当時と2002年現下においてE社の経営や事業を比較しつつ、現下のネガティブ項目をどのように評価するか、あるいはポジティブ項目をどのように市場や金融機関に訴求するかが問題である。

【図表】 海外ブロードバンド事業会社E社の今後に向けた手立て

(注) 「赤い小さな実線○印」:E社自身のポジション、「水色の大きな破線○印」:E社を取り巻く市場環境。「Net D/E Ratio」:(純有利子負債÷株主資本)の比率。
(出所) 日本総合研究所 ICT経営戦略クラスター作成[2002年9月]

▼▼▼ ブロードバンド事業の収益性と他関連事業へのシナジー分析・評価③ ▼▼▼

「キャッシュフロー志向+新オプションバリュー経営」に向けた評価

これまでの「株式時価総額極大化経営」から「キャッシュフロー志向+新オプションバリュー経営」に向けた評価を行うことで、あらためて金融機関をはじめステイクホルダーへうまく訴求できるかが重要となっている。そのためには、①営業キャッシュフロー創出、②オプション資産バリュー増価に関する評価と説明の仕方(IRなど)がポイントとなる。

【図表】 海外ブロードバンド事業会社E社のこれまでの戦略から今後に向けたキャッシュフロー創出戦略へのシフト

(注) 「CF」:キャッシュフロー。「オプション資産バリュー」:ブランド、ビジネスモデル、顧客数など。「リアルオプション手法」:設備の新設・償却、事業の清算などのオペレーション上の自由度を織り込んだバリュー評価を行える。
(出所) 日本総合研究所 ICT経営戦略クラスター作成[2002年9月]

▼▼▼ ブロードバンド事業の収益性と他関連事業へのシナジー分析・評価④ ▼▼▼

ブロードバンドサービスの顧客をライフタイムバリューで測る

最も注目を集める戦略的ブロードバンド事業についての顧客の生涯価値(ライフタイムバリュー)を推測し、その上で、関連事業とのシナジー効果発揮分を積み上げることができるかがポイントである。

【図表】 ライフタイムで見る顧客バリュー(LTV)とキャッシュフロー積み上げイメージ

(注) 「LTV」:ライフタイムバリュー。「CF」:キャッシュフローのこと。
(出所) 日本総合研究所 ICT経営戦略クラスター作成[2002年9月]

▼▼▼ ブロードバンド事業の収益性と他関連事業へのシナジー分析・評価⑤ ▼▼▼

ネットワーク価値の算出
次の4つのネットワーク価値を比較する。詳細は次表にまとめる。

ネットワーク価値①:


投資資産価値

ネットワーク価値②:


ネットワークが生み出す価値(NPV)



通常行われる事業価値の算出方法

ネットワーク価値③:


不確実性を考慮したネットワークが生み出す価値(オプションバリュー1)



不確実性を考慮した価値であり、インフラ事業や一部のIT投資の事業評価には使われ始めている評価方法

ネットワーク価値④:


ネットワーク事業全体の存在が新たな事業を行う際の選択権をもっていることになり、それにより生み出せる価値(オプションバリュー2)



E社のネットワークだからこそ実現できることが生み出す事業価値をオプションを使って定量的に評価する方法


【図表】 IPネットワークの価値

(出所) 日本総合研究所 ICT経営戦略クラスター作成[2002年9月]

▼▼▼ ブロードバンド事業の収益性と他関連事業へのシナジー分析・評価⑥ ▼▼▼

【RO価値の算出例】:不確実性を考慮したネットワークが生み出す価値

次のような事業のぶれ要因は、正規分布に従うものと仮定する。

将来のキャッシュフロー、もしくは獲得ユーザー数
RO価値は、次のようなブラック=ショールズ・モデルに従ったRO価値算出式から求めた。
シナリオ別の事業価値(事業利益の期待値)Ctとボラティリティσを求める。



【図表】 海外ブロードバンド事業会社E社の事業利益の期待値とボラティリティ算出

(出所) 日本総合研究所 ICT経営戦略クラスター作成[2002年9月]

▼▼▼ ブロードバンド事業の収益性と他関連事業へのシナジー分析・評価⑦ ▼▼▼

各パラメータ数値の決定。

原資産価値:シナリオa~cの期待値(数年分のCFを足し合わせたもの)から計算。

権利行使価格:ネットワークへの投資費用(継続費用は含めない当該事業の立上費用)から計算。

ボラティリティ:シナリオa~c別の期待値と生起確率、その分散度合い(平均乖離度の標準偏差)から計算。

満期期間 :事業の有効期間、同国政府のブロードバンド普及目標より1年遅れると見込んだ。

リスクフリーレート:ほぼ長期国債のレートに準ずる。

【図表】 海外ブロードバンド事業会社E社のオプション価値を求めるための各パラメーター

(出所) 日本総合研究所 ICT経営戦略クラスター作成[2002年9月]

▼▼▼ ブロードバンド事業の収益性と他関連事業へのシナジー分析・評価▼▼▼

ブラック=ショールズ・モデルが適用できる場合、現行のNWサービスの事業価値Ctは、実際にはRO価値を考慮すべきものとなる。

IPネットワーク事業への投資を行う際、かつリアルオプションが適用できるケースの場合、当該事業の正しい価値を算定するには、RO価値を適正に評価できるかがポイントとなる。

【図表】 海外ブロードバンド事業会社E社における各試算価値の比較

(注) 「各数値」:桁を無視した相対値(円価)を示す。
(出所) 日本総合研究所 ICT経営戦略クラスター作成[2002年9月]