事例C:ERP導入のみに疑問を抱いた京都電子工業(仮称)
日本総合研究所 研究事業本部 新保豊 主席研究員(2002年3月) | ||||
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【お詫び】当ページの「東京エレクトロニクス工業(仮称)」は、以前「京都電子工業(仮称)」を用いていました。これは以前の会社名が実在することに当ページ執筆者が十分留意せず、その名前を用いてしまっていたからです。京都電子工業株式会社様およびそのご関係者の皆さまには、ご迷惑をおかけしました。ここに訂正しお詫び申しあげます。 | ||||
(1)東京エレクトロニクス工業のプロフィールと本ケースの内容 1)プロフィール 東京エレクトロニクス工業は、最近では携帯電話向け電子部品や半導体は製造・販売している、伝統的な国内最大手級エレクトロニクスメーカーである。 2)事業の位置付けと内容と本ケースの内容 東京エレクトロニクス工業の取組み事業の、冒頭での位置付けは次の通り。 | ||||
● | 軸足: 「既存技術-既存市場」領域からスタートし、「既存技術-新規市場」領域をターゲットとしている。 | |||
● | サイクル: 電子部品製造と販売の現行事業で扱う製品の多くは「成熟期」の前半。時代に合わせたタイムリーな新製品の投入が不可欠である。 | |||
主要製品は、過去、磁気ディスク、自動車部品とその補修品、電子メディアと続き、IT好況時には携帯電話用半導体、光部品といった具合に、市場の動向に合わせ主力を変えてきた。 | ||||
● | 一般顧客向け: | |||
◇ | 受注などが定常的にある売上確定現段階にあり、軸受け補修品や電子部品など仕様が決まっているものは、ネットと代理店を通じ販売する。 | |||
● | 重要顧客向け: | |||
◇ | 受注未確定でコンセプト段階またはデザイン段階にあり、次期製品については、専門の顧客チームを組織し手厚いアプローチを行う。 | |||
「ITバブル崩壊」前に当る1999年末、事業上の競争戦略の一環として、PDM(Product Data Management)、SCMおよびCRMを導入しようと考えた。 | ||||
● | ITマネジメントにより実現した仕組み | |||
◇ | PDM導入による設計効率化: | |||
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★ | パッケージ導入の2年間後、取引先を中心に設計データなどを自動的にやり取りできるようになり、設計業務の効率化を15%程度アップできた。 | ||
◇ | TOC導入による生産性向上: | |||
★ | 制約条件の理論TOCを業界でも早目に導入でき、1年前の生産性を20%改善した。 | |||
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★ | しかし、コラボレーションの仕掛けはなく、社外関係企業間の需給調整に悩まされていた。 | ||
◇ | 次世代SCMの基礎: | |||
★ | 取引先との間で必要部材を調達したり、顧客商品に自社製品が組み込まれることを前提に、需要予測と在庫補充のための共同事業を行うCPFR(Collaborative Planning, Forecasting and Replenishment)の仕組みの基礎を構築。 | |||
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★ | EMS利用の割合が高い米国で生産される製品に関し、営業担当者が在庫状況や組立経過の現況を常にトレースできる顧客・取引先追尾の仕組みをつくった。 | ||
そして、同プロジェクトのさなか、ITバブルが崩壊した。 | ||||
● | ICTマネジメントが必須となってきた | |||
◇ | 新型CRMの仕組み基礎: | |||
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★ | 2002年初以降、生産・流通機能に加え、コラボレーションをキーワードとした、新しいコラボレーティブ・コマース(cコマース)の仕組みを構築しつつある。 | ||
◇ | 情報システム戦略と経営戦略の結合: | |||
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★ | インフラ構築を行うIS部門に、経営企画や営業などの現業部門からのアクション・フィードバック回路を作ることで、関係部門の戦略を結合させる下地をつくった。 | ||
以上はIT革命第2幕のなか、日本の産業構造が変わり、市場が大きな変革期を迎え、顧客企業の取組みも変容してきた。 | ||||
(2)インタンジブルICTマネジメント 1) 何が競争力の源泉になりつつあるか? 東京エレクトロニクス工業の取組みでは、企業システムの変遷のなか、最適と思われる手法・ツールを選択した。 | ||||
● | 制約条件の理論TOC(Theory of Constraints) | |||
◇ | TOCは、トヨタのジャストインタイム(JIT)生産方式よりも優れた生産方式といわれており、OPT(Optimized Production Technology)と呼ぶ生産系ソフトウェアのスケジューリング機能を発展させ、工場内のボトルネック工程(生産の制約条件)に着目し、生産改善を一層図る理論として米国ほか海外でも注目されている。 | |||
◇ | 米国ではTOC適用により、JITと比較し25%程度の時間で、さらによい結果が得られる手法と言われている。 | |||
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日本では2001年5月の発売以降ベストセラーとなった「ザ・ゴール」には、その理論がやさしくゴールドラット博士により展開されている。 | ||||
● | 需要予測の精度向上と在庫量の削減といったドライな仕組みの再考 | |||
● | 取引先とのウェットな信頼関係を基礎に柔軟で融通の効く仕組み構築 | |||
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産業構造の転換などを迫られるわが国では、このような生産量の調整などのオペレーション効率化の先にあるもの、即ち「見えざる資産」のマネジメントが、競争力の源泉として今日求められるようになってきた。 2) 戦略のダイナミズムを実現する見えざる資産の競争力 | ||||
● | 見えざる資産の本質 | |||
◇ | いまや時代はブランド、技術・ノウハウ、サービス供給力などの「見えざる資産」が企業の競争力と企業価値を大きく左右するようになった。 | |||
◇ | 環境変化がますます激しい時代となって、この主張はますます注目されてきた。変化に対応する源泉が、とりもなおさず見えざる資産にあるからだ。 | |||
また、巨大な生産設備や土地などの有形資産から人的資産、顧客資産、ブランドなどの「無形資産」の時代となった。インタンジブルに関する経営について、次のように一橋大学大学院商学研究科伊藤邦雄教授は指摘する。 | ||||
● | インタンジブル経営 | |||
◇ | インタンジブルは、重要性が認識されながら「見えない」ため測定できず、マネジメント課題の中枢に据えられて来なかった。 | |||
◇ | 「見えない富」を測定しようとする試みは、価値の本質に迫るきわめて挑戦的な課題である。 | |||
◇ | この課題に果敢に取り組むことが21世紀のマネジメントを創造することになる。 | |||
ITやISだけが、企業の活力を取り戻す解ではないが、これらが戦略と結合できれば再び経営を立て直せる。ITやISもインタンジブルな経営要素といえる。 | ||||
● | ブランド価値 | |||
◇ | 2001年の英インターブランド社調査によれば、通常「見えない資産」を、営業利益予測値から資本コストと税金を引いた経済的利益を現在価値に置き換えた「ブランド価値」として算出。 | |||
◇ | トップが米国のコカ・コーラで68,945百万ドル、以下マイクロソフト、IBM、GEと続き、5位にはフィンランドのノキアが35,035百万ドル。 | |||
◇ | 日本勢は筆頭にトヨタが14位、ソニー20位、ホンダ21位と続き、松下電器は72位の3,490百万ドルに過ぎない。 | |||
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(3)コラボレーティブ結合モデル 1)ビジネスの骨格のデザインとコラボレーション 日本企業が、米欧やアジア諸国に勝るためには、効率化(How)一辺倒の領域から、ビジネスの骨格をデザイン(Why&Whatの設計)できる領域への転換が不可欠である。 | ||||
● | コラボレーションの構造と必要条件 | |||
◇ | コラボレーションの構造: | |||
★ | 場の創出・起点(Setting / Starting)→可視化(Visualizing)→保管・熟成(Aging)→アクション(Doing)の一連の流れに分解できる。 | |||
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★ | この「SVAD」のスパイラルな仕組み構築がポイントとなる。 | ||
◇ | コラボレーションの必要要件: | |||
★ | 地理的に有利な要素や目的を共有するコミュニティ空間(場)が不可欠。その空間は時に居心地がよい(cozy)ことが重要となる。 | |||
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★ | IS開発においてはユーザー部門との緊密な関係を構築し、従来IS部門に見受けられる「依頼・請負」型から「コラボレーション」型へ。 | ||
2) インタンジブルプロセスとタンジブルプロセスの結合 | ||||
● | 今後の競争力の分かれ目 | |||
◇ | 「顧客関係の管理」での"効率化"を超える「顧客関係の再構築」(CRB:Customer Relationship Building)を通じ新しいもの異なるものを生む。 | |||
◇ | ICTの仕組み(基盤)を構築し、いかに自社のコア・コンピテンスをそこに反映できるか、このトライ&エラーのプロセスを継続する。 | |||
一般的に顧客との関係(フロントエンド領域)では、売上高というタンジブルな指標で企業の業績や個々のスタッフの実績を測りやすい。 | ||||
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