RIM 環太平洋ビジネス情報 2000年2月No.48
中国の国有企業における「単位」制度改革の現状と今後の展望
2000年02月01日 さくら総合研究所 副主任研究員 賈宝波
要約
市場経済体制下にある日本や欧米諸国などでは、一般的に、政府(主に地方政府=地方自治体)が社会就業、社会保険、社会福祉などの社会機能を果たしているのに対し、長期にわたって計画経済体制下にあった中国では、個々の国有企業が1つの「単位」として、政府のこれらの社会機能を肩代わりしてきた。つまり、中国の国有企業においては、政府の社会機能と国有企業本来の経済機能とが混在している(「社企混在」)。
こうした国有企業における「単位」制度は、労働力が過剰である中国社会において、就業を希望する都市住民に就職の場を提供し、さらに終身雇用制によって従業員の生活の安定を保障することにより、社会の安定が維持されるという点で、大きな役割を果たしてきた。しかし、こうした「単位」制度には、次のような欠点も指摘できる。(1)終身雇用制が、合理的な労働力配分と労働力の流動化を阻害した。(2)従業員の能力や業績に関係なく、等しく手厚い福祉や医療サービスなどを提供することが企業の生産コストを高め、従業員の労働意欲の向上を妨げた。その結果、多くの国有企業の経営が悪化することとなった。
このような状況の下で、80年代半ば頃から、「単位」制度の改革が図られ、「社企混在」から「社企分離」の方向へ向かっている。具体的には、(1)従来の終身雇用制が廃止され、その代わりに労働契約制が実施されつつある。(2)労働契約制への移行に伴う大量の余剰人員問題を解決するため、失業保険制度が創設された。(3)国有企業により丸抱えされた従業員の医療制度が廃止され、その代わりに公的拠出(「社会統籌」)と個人口座を結び付け、新しい医療保険制度が設立された。(4)国有企業により丸抱えされた従業員の養老年金制度が廃止され、その代わりに基本年金保険制度が確立された。(5)「企業福祉」の一環としての住宅分配制度が廃止され、その代わりに住宅の私有化が進められている。
全体的にみれば、こうした「単位」制度改革の方向性(「社企混在」から「社企分離」への転換)は正しいと考えられる。その理由は、次の通りである。(1)労働契約制への移行が、合理的な労働力配分などに寄与している。(2)社会保険制度の創設によって、国有企業などよりレイオフされた従業員や失業者の基本的生活が保障されるとともに、社会の安定が維持されている。(3)医療保険制度の改革によって、企業の医療費の増大に歯止めがかかり、企業の負担が軽減されている。(4)養老年金制度と住宅制度の改革によって、企業の負担が軽減されるだけでなく、労働力の流動化も促進されている。
それにもかかわらず、「単位」制度の改革には、(1)労働契約管理体制の不備、(2)失業保険の対象範囲が狭いこと、(3)医療保険と年金保険の全国的な統一管理の問題、(4)国有企業に属する住宅の私有化において住宅の販売価格が高すぎるため、多くの従業員が購入資金に乏しいこと、などの問題点が依然として残されている。
今後、改革の進展に伴い、こうした問題点が徐々に克服されれば、「単位」制度改革の達成が、国有企業改革そのものだけでなく、社会のセーフティ・ネットとして、改革に伴う大量の余剰人員のレイオフや失業などによる社会不安の最小化や混乱の回避にも、大きな役割を果たすものと考えられる。