RIM 環太平洋ビジネス情報 2000年7月No.50
急拡大するアジアのインターネット・バンキング
NIEsで進展するアジアと欧米の有力銀行の対応
2000年07月01日 さくら総合研究所 上席主任研究員 高安健一、さくら総合研究所 副主任研究員 遠山淳子、さくら総合研究所 副主任研究員 西村芳恵
要約
1999年は、アジアにおける消費者向け(B2C: Business to Consumer)インターネット・バンキングの普及元年であり、シンガポール、香港、韓国などで本格的なサービスの提供が開始された。その背景として、(1)インターネットの普及率が急速に高まってきたこと、(2)消費者がテレフォン・バンキングやオンライン証券取引など、ネットワークを利用した金融取引に慣れてきたこと、(3)地場および外国銀行が競争力強化の観点からインターネットを利用したサービスの提供に本腰を入れ始めたこと、などが指摘できよう。
インターネット・バンキングの普及状況を国別にみると、シンガポールが地場4大銀行を軸に最も対応が進んでいる。香港では、中堅銀行が先行しており、香港上海銀行が急速に追い上げている。韓国では、99年後半より急速に普及しており、銀行は大規模な投資を行っている。台湾では、4つの銀行にインターネットを利用した資金移動が認められるなど、普及に弾みがついている。アジアNIEsでは、多くの銀行が、残高照会や資金移動のみならず、証券、投資信託、保険なども提供しており、複数の金融商品を販売するクロス・セリングに力を入れつつある。
アジアおよび欧米の主要銀行は、これまでのところ、インターネット専業銀行を設立するのではなく、既存の銀行免許・支店を活用してサービスを提供している。今後各国の金融当局が、専業銀行設立に関してどのようなガイドラインを出してくるのかが注目される。欧米銀行のなかでは、シティバンク(米)、香港上海銀行(英)、ABNアムロ銀行(蘭)、バンク・オブ・アメリカ(米)などが、積極的に取り組んでいる。とりわけ、シティバンクは、グローバル戦略と連動させながら、シンガポールや香港を皮切りにアジア各国でサービスを提供している。
邦銀は今後アジア戦略を具体化するにあたり、インターネット・バンキングの動向を注意深く見守っていく必要がある。しかし、現状、アジアでのリテール業務の経験不足、低いブランド力、インターネット専業銀行の新設免許獲得、社内の人材育成など課題は多い。仮に、B2Cをターゲットにアジアでサービスを提供するのであれば、地場銀行との提携が不可欠である。
インターネット・バンキングは、アジアでも状況が目まぐるしく変化する分野であり、日本国内で実用化したノウハウをアジアに移転するという2段階方式ではなく、日本とアジアで統一された戦略の下、同時並行的に取り組むべきテーマであろう。