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RIM 環太平洋ビジネス情報 10月号Vol.4 No.15

韓国の消費不況の分析
構造改革の代償

2004年10月01日 向山英彦


要約

  1. 通貨危機後の韓国経済にみられる変化として、民間消費が景気を大きく左右することになったことと、経常収支が黒字に転じたことがあげられる。輸出主導で景気が回復した通貨危機直後とは対照的に、2001年後半からは内需主導で景気が回復した。その要因は、実質金利の低下と消費者信用の拡大であった。消費者信用が伸びた背景には、金融機関がリテール戦略を強化したこととクレジットカードの利用が増加したことがある。 。

  2. 上で述べた変化は、資金循環表からも確認出来る。消費者信用の拡大により、家計部門は2002年に資金余剰から資金不足に転じたのに対して、経常収支の黒字転換により海外部門は資金不足となった。 。

  3. 金融システムの早期再建や企業の財務基盤の強化など、構造改革の成果が内需主導の景気回復を支えた。しかし構造改革には残された課題も多いことに加え、「成果」の代償ともいうべき問題が生じた。それらは家計債務の増加、雇用環境の不安定化、労働争議件数の増加などで、その後、民間消費をはじめ実体経済にマイナスの影響を及ぼすことになる。 。

  4. 2003年1~3月期、4~6月期と、2期連続で経済成長率が前期比マイナスとなり、韓国は景気後退に陥った。イラク情勢や北朝鮮情勢の悪化、SARSなどの影響もあるが、この時期の景気後退は、民間消費の落ち込みが主因であった。

  5. 民間消費が低迷した背景に、家計債務の増加と政府による消費者信用抑制策の影響などがある。個人の返済遅滞や破産の増加などを受けて、政府は、 2002年入り後、キャッシング限度額の引き下げや個人信用分析の強化、不動産担保付ローンの担保率の引き上げなどの措置を相次いで導入した。これにより消費者信用の拡大に歯止めがかかった一方、消費が抑制されることになった。 。

  6. 実証分析からも、消費者信用供与額の増加が民間消費の過熱につながった一方、その鈍化が消費にマイナスに作用したことが明らかになった。さらに消費の低迷が長期化している理由として、所得・雇用環境の悪化や家計支出における債務返済率の上昇が複合的に関係していることが考えられる。 。

  7. a.1カ所の金融機関だけに債務のある人に対し、金融機関別の審査を経て、一定期間返済を先送りするなどの債務調整を行う、b.多重債務者については、債務額に応じ、個人ワークアウト、共同債権回収プログラム、バッドバンク、個人破産などの方法を適用する、というものである。 。

  8. 金融機関が債務調整を実施したことおよびバッドバンクが活動を開始したことにより、信用不良者数は6月に減少に転じた。信用不良者問題は最悪の状況を脱しつつあるが、依然として370万人近く存在する状況を考えると、消費の回復にはまだ相当の時間を要するだろう。
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