RIM 環太平洋ビジネス情報 2004年4月Vol.4 No.13
グローバル志向を強めるわが国自動車メーカーの東アジア戦略
2004年04月01日 環太平洋研究センター 森美奈子
要約
- 1990年代中頃まで、わが国自動車メーカーの東アジア戦略は、各国の自動車産業保護政策に対応する形で展開されていた。各社は進出先の小規模な市場を対象とした非効率な生産を余儀なくされ、国際分業を推進する余地は限られていた。しかし90年代後半以降、ASEAN(東南アジア諸国連合)における貿易自由化や中国のWTO(世界貿易機関)加盟など貿易や投資の自由化が進展したこと、世界的に自動車業界の競争が激化したことなどから、自動車メーカーはグローバルな視点からアジアの生産拠点を積極的に再編するようになった。
- 拠点から域外への輸出、という新しい動きが見られた。日本企業は、国内市場が狭隘であるというASEAN4の制約条件を補うべく、域内分業体制を構築し、これをさらにグローバル戦略にも活用し始めた。
- 90年代末以降の中国における自動車産業の規制緩和と市場の急成長は、主要自動車メーカーの東アジア戦略の重心を中国へとシフトさせた。自動車メーカーは、成長著しい中国市場で競争力のある生産体制を構築し、販売シェアを確保することに最優先で取り組んでいる。各社は現在生産能力を大幅に拡充しているが、これは国内市場への供給を想定したものであり、市場が引き続き順調に拡大することを前提とすると、当面輸出余力は小さい。輸出の本格化は、増産体制が軌道に乗った後のこととなろう。輸出はまずは価格競争力を生かせる部品分野で増加することが予想される。その多くは多国籍企業の企業内貿易により本国や海外拠点へ供給される形となろう。完成車の輸出は、外資系ブランド車を比較的関税率の低い新興市場や一部の先進国に供給するパターンが中心となり、量は限定的であろう。
- 先進国の自動車メーカーがASEAN4と中国に多額の投資を行ってきたことから、両地域の貿易は、主に多国籍企業の本国や海外拠点との間で拡大してきた。一方、東アジアの域内貿易は各国の貿易障壁などにより限られたものとなっている。将来的にFTAが締結されて貿易障壁がなくなれば、企業がとりうる分業の選択肢が拡大する。わが国自動車メーカーは、日本と東アジア各国それぞれの比較優位を生かしながら、完成車や部品を相互に供給する分業体制の構築が可能となるであろう。
- わが国自動車メーカーの次なる課題は、中国も含めた東アジア拠点の連携の拡大と深化である。タイを中心としたASEAN4拠点は、グローバル戦略の一翼を担うとともに、インドやオーストラリアなどとの連携を深めることで、中国拠点との差別化が可能となろう。わが国自動車メーカーは、日本、中国、 ASEAN4をそれぞれ一つの生産・販売単位として現地需要に対応した生産を行う方針である。貿易・投資の自由化の進展に応じて分業体制を柔軟に変化させながら、東アジア全体として緩やかな協業を目指していくことになろう。