RIM 環太平洋ビジネス情報 2002年1月Vol.2 No.4
台湾からみる中台交流-対中経済交流の正常化へスタート
2002年01月01日 環太平洋研究センター 小林重雄
要約
- 台湾では、これまで原則禁止としてきた中国との経済交流を原則自由化、正常化し、積極的に拡大していくという方針が、打ち出されている。背景には、中台の WTO加盟のほかに、現在のような規制を続けた場合、中国へ進出した多くの台湾企業が、中国市場での競争力を失ってしまうことや、中国で計上した台湾企業の利益を還流させて、台湾経済の活性化につなげることなどがある。
- 中台経済交流が正常化した場合、台湾では再度対中投資ブームが起き、金融機関の進出も続くであろう。また、中国から台湾のサービス産業への投資も行われて、資金移動が活発になり、台湾海峡を挟んだ海空運の両岸ネットワークが形成されて、流通が迅速化しよう。一方で、台湾経済の空洞化が、急速に進行する恐れがある。
- 中台経済交流のためには、台湾において法令の改正が必要であるが、これは台湾にとって困難な作業を伴う。今日の台湾は、過去の国府体制が時代に合わなくなっているため、台湾本土化を進めていく方針であるが、平和を維持するためには将来の中国との統一をうたわなければならない、という複雑な事情があるからである。
- 台湾が法改正の上、政策転換しても、中国との協議が順調に運ぶ訳ではない。政治対立が解けないままで通航を開始すれば、安全保障上の問題が発生するし、銀行コルレス取引を開始すれば、経済の波乱要因にもなる。また「一つの中国」という国家観を協議の前提にすると、半永久的に協議が始まらない恐れがある。直航にしても、中台航路は国内航路か、国際航路か、台湾の中国旅客受け入れは国内旅行か、海外旅行か、という定義論争が繰り返されるであろう。
- WTO同時加盟においても、中台の思惑の違いが大きい。台湾はWTOの枠組みのなかで中台問題を解決したいという意図があるが、中国は、台湾問題は内政問題であり、WTOのルールに則して台湾問題を解決する考えはないと表明している。
- 中台が多くの困難な問題を克服して、正常な経済交流を実現できるかどうかは、国家観、イデオロギーは棚上げして、実務に徹して協議できるかにかかっている。政府対政府の交渉は不可能であるため、民間協議で進めていかざるを得ない。一方で、政府が直接関与しないことが、かえってプラスに働くという結果になる可能性もある。直接の通商は来年にも始まるが、結果として海運直航や銀行コルレスの締結までには3年、空運直航にはさらに3~5年程度の時間がかかるとみるべきであろう。