RIM 環太平洋ビジネス情報 2002年1月Vol.2 No.4
タイにおける完成車メーカーの新戦略と部品メーカーの対応
2002年01月01日 環太平洋研究センター 森美奈子
要約
- タイの自動車産業は、外国直接投資を活用して成長を続けている好例である。とりわけ、1990年代後半以降、(1)通貨危機以降の国内市場の落ち込み、(2)世界的な貿易自由化の進展、(3)完成車メーカーによるM&A(企業の合併・買収)の活発化、(4)情報技術(IT)の発展など、 ASEAN4(タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン)の自動車産業を取り巻く環境が大きく変化するなかで、タイはこの地域における自動車生産国としての優位性をいっそう高めている。
- 自動車産業の成長の背景には、完成車メーカーが環境変化に対応した新しいアジア戦略において、タイをアジアにおける中核拠点の一つと位置付けていることがある。現在、各社は、タイの生産拠点を、(1)特定モデルの世界への輸出拠点、(2)ASEAN域内分業における中核拠点とするために、生産体制の強化や生産の拡大を計画している。
- 完成車メーカーはタイ製自動車の国際競争力の強化、とりわけコスト削減に注力している。コスト削減策は、(1)現地調達を拡大するための設計機能の移管、(2)生産をサポートする新しい物流システムや情報通信システムの導入など、設計から販売や物流に至る生産システム全体の効率化へと広がりをみせている。
- 2000年頃より、部品メーカーの投資が活発になっている。完成車メーカーの新戦略に対応するためには、部品メーカーもこれまで以上に高い資質が求められている。部品メーカーが備えるべき要件として、(1)国際水準の品質・価格・納期の達成、(2)詳細設計・評価機能の設置、(3)グローバルな生産体制とのリンク、(4)情報通信ネットワーク化への対応、が指摘できる。
- タイがアジア地域の代表的な自動車生産国へと成長しようとしている一方で、企業は、自動車製造拠点としての同国の限界についても認識しておく必要がある。第1に、タイの役割は、1トンピックアップトラックなど特定車種の自動車供給拠点にとどまると考えられる。第2に、グローバル化や情報通信ネットワーク化に必要な人材、インフラ、関連産業の基盤が弱く、このことが、企業が生産機能を高度化させていくうえでの制約要因となる可能性がある。
- 完成車・部品メーカーは、ASEANの中核拠点としてのタイ、成長の期待される中国、自動車生産・輸出国である日本、韓国を含むアジア全体として、最適な分業を目指していくことになるであろう。将来的には、アジア域内での完成車の製品間分業も現実味を帯びてくるであろう。