RIM 環太平洋ビジネス情報 2004年4月Vol.4 No.13
為替制度の変更に向かう中国
2004年04月01日 環太平洋研究センター 孟芳
要約
- 2003年以降、人民元の切り上げ圧力が高まった背景には、中国の輸出の増加と主要貿易相手国の対中貿易赤字の拡大がある。中国は、1994年に人民元の大幅な切り下げと同時に、現在の事実上のドル・ペッグ制に移行した。その後、アジア通貨危機によって一時的に人民元の切り下げ圧力が強まったが、為替レートの安定が維持されてきた。
- その一方、現行の為替制度を維持するためには、大きなコストを伴う。すなわち、a.為替レートを安定させるための市場介入には十分な外貨準備が必要であること、b.市場介入により流動性が増加し、インフレを招く恐れがあること、c.資本取引を規制する必要があること、などである。海外からの人民元の切り上げ圧力に加えて、こうしたコストの増加を背景に、中国政府は、為替制度の変更についてやや柔軟な姿勢をみせ始めている。
- 一般的に、一国の資本移動の自由化、金融政策の独立性、固定相場制の三つが同時に成立することは不可能とされる。中国は今後、金融システム健全化と資本取引の一段の自由化を推進しながら、為替レートの変動幅の拡大をはじめとする柔軟性のある為替制度に移行していくことが予想される。
- 人民元高がマクロ経済に及ぼす影響としては、短期的には、輸出の拡大にブレーキがかかり、景気が一時的に減速することが予想される一方、中長期的には、企業の設備更新、先端技術の導入などを通じて輸出競争力の向上につながることが期待できる。
- 人民元高の外国企業への影響に関しては、加工貿易型の輸出企業は原材料や中間財の輸入価格の低下により輸出競争力を維持できる半面、国内販売中心の企業にとっては、輸入品の増加による市場競争の激化が予想される。新規の対中進出については、為替リスクが発生するものの、中国の投資先としての魅力は依然として高いために、引き続き拡大が続くものと考えられる。