コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

RIM 環太平洋ビジネス情報 2004年1月 Vol.4 No.12

東アジアにおける市場統合と自動車貿易拡大の可能性

2004年01月01日 環太平洋研究センター 竹内順子


要約

  1. 多国間貿易自由化交渉が困難度を増す一方で、世界的に経済連携協定(EPA)の締結が増加している。2000年以降、東アジア(注1)においても EPAをめぐる動きが活発化しており、二国間あるいは国・地域間のEPAを積み重ねて、最終的にはASEAN+3(日本、韓国、中国)という枠組みで自由貿易圏へと発展させることが構想されている。

  2. 近接した国・地域による市場統合は、多国籍企業の生産立地に大きな影響を及ぼすことが予想される。貿易障壁が存在するために規模の経済性を犠牲にした生産が行われてきた地域では、市場統合による越境コストの低下が十分であれば、生産の集約が行われ、域内貿易が活発化する可能性が大きい。

  3. 自動車産業は貿易収支への影響や関連産業への波及効果の大きさなどから、途上国において高い貿易障壁が設けられる産業の典型であり、東アジアでは現状でも分断された小規模市場の集まりという性格が残っている。中国、台湾ではWTO加盟時の約束、ASEANでは域内の貿易自由化の推進によって自動車に関する貿易障壁は低下しつつある。それでも、今後、EPAをベースに貿易や投資の自由化が行われれば、最も大きな影響を受ける産業の一つとなることは間違いない。市場統合が行われて久しいEU、NAFTAでは、完成車の相互貿易が活発に行われており、自動車の域内貿易比率は7割超と高い。

  4. 東アジアの自動車産業は、韓国、中国という比較的生産規模の大きな二つの国と小規模生産国によって構成されており、韓国、タイを除く諸国では国内供給向けの生産がほとんどを占める。ASEANにおける貿易自由化の進展によって、ASEAN内の貿易は緊密化しつつあるものの、輸出では欧米、輸入では日本と強い繋がりを持つ国が多い。東アジアにおける市場統合は2010年をめどとするASEAN・中国間の関税撤廃が第一段階となる見通しであるが、本格的な域内貿易の拡大には、地域最大の供給国である日本の参加が必要条件となる。

  5. a.輸送費用の低下をもたらすための地理的・制度的条件、b.完成車レベルにおける生産主体本国との生産調整の可能性の低さなどを考慮すれば、東アジア+日本という範囲で市場統合が実現したにせよ、域内における生産集約は範囲も進度も緩やかなものとなり、域内貿易比率はEU、NAFTAと比べると低い水準にとどまる可能性が大きい。しかし、市場統合は生産国としての今後のポジションを定める大きな分岐点であり、域外国となることのデメリットは大きい。近隣諸国が供給・調達に関する自由度を高めるなかで、輸入の増加を懸念して一国ベースの需給体制を維持しようとすれば、縮小均衡を免れることは出来ず、当該国に対する多国籍企業の関心も低下する。それは今後、東アジア+日本で構築されるであろう相互補完的な需給構造のなかで存在意義を失うことにつながる。

    (注)東アジアといった場合は断りのない限り、韓国、台湾、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、中国の7カ国・地域を指す。完成車生産のない香港、シンガポールは含めない。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ