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RIM 環太平洋ビジネス情報 2002年7月Vol.2 No.6

深刻化する中国の失業問題

2002年07月01日 今井宏


中国の人口は、2000年末現在で12億6,583万人と世界一の規模を誇る。人口の増加が依然著しいことと、都市部への人口のシフトが増加していることが、雇用情勢に大きなインパクトを与えている。また、今後も、毎年1,000万人を超える新規労働力の供給が見込まれている。

都市部の就業者数は、2000年には2億1,274万人に増加した。80年代から90年代前半にかけて、雇用吸収で重要な役割を担ったのが国有企業などの公有セクターであった。しかし、90年代に入り、公有セクターの重要性は相対的に低下し、これに代わり、私営企業、個人経営企業および外資系企業などの非公有セクターが雇用を拡大している。農村部の就業者数も、98年を除き、これまで一貫して増加している。改革・開放政策以前には、農村部就業者の大多数が農業に従事していたが、80年代から90年代半ばまで、郷鎮企業による雇用が増加し、雇用に重要な役割を果たした。しかし、95年以降、郷鎮企業の雇用の伸びが大きく鈍化し、非農業セクターによる雇用吸収にかげりがみえ始めた。農業収入の伸び悩みや農業の代わりとなる産業の未発達などの要因から、農村部では慢性的な労働力の供給過剰状態にあり、沿海部や内陸部の都市への出稼ぎが盛んになっている。

公式統計では、2001年末の都市部失業率は3.6%とされている。しかし、これは失業者の一部しか把握しておらず、実際にはこれよりはるかに多くの事実上の失業者や潜在失業者が存在する。下崗労働者(一時帰休者)、企業内の余剰労働力、農村部の潜在失業者なども、本来失業者としてみなされるべき存在といえる。下崗労働者は、企業との雇用関係を継続しているという意味では失業者とは異なるが、実際には休職状態にある者や実質的に離職した者がほとんどで、元の仕事へ復帰できる可能性も極めて低く、一時帰休者というより失業者に限りなく近い。企業内余剰労働力は、計画経済時代に都市部で完全就業が目指されたことから、国有企業内に大量に存在している。農村部でも、多くの余剰労働力が存在する。2000年のデータを使い、広義の失業者数と失業率を試算すると2億 700万人となり、広義の失業率は29.1%に達する。とくに、農村部における余剰労働者数は約1億7,100万人と、農村部就業人口の34.4%に達する。

WTO加盟を受け、今後、多くの海外企業が中国に進出し、国内市場における競合が強まることから、失業者や下崗労働者の急増が予想される。また、農業も厳しい国際競争にさらされ、雇用情勢の悪化が避けられない。失業問題の深刻化に伴い、政府は、1)経済開発を進め、雇用創出を促進すること、2)雇用制度を改革し、労働市場の整備と新たなメカニズム形成を図ること、3)農村部労働力の秩序ある流動化プロジェクトを実施し、農村部労働力の移動を計画的に進めること、という三つの重点施策を掲げて対応を図っている。しかし、失業者数の増加に歯止めがかからないなど、事態は悪化の一途をたどっている。失業問題の解決が簡単には進まない要因として、1)人口増加が著しいこと、2)計画経済時代に進めた高就業率政策維持の負の遺産、3)雇用吸収を行う主役が見当たらないことの3点が指摘できる。失業問題は、様々な構造的要因が絡み合い、解決を困難にしている。政府も対応を進めているものの、短期間で失業者の減少や雇用の増加を可能にするような抜本的な対応策や解決策は存在しない。

大量失業の発生や本来手当されるべき社会保障が不十分であることは、政治・経済面において先進諸国の失業問題よりも大きなインパクトをもたらす可能性が高い。当面の間、政府は綱渡り的な対応を進めて行かざるを得ないであろう。
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