RIM 環太平洋ビジネス情報 003年8月Vol.3 No.10
インドにおけるソフトウエア人材の育成システム
2003年08月01日 T政策究センター 大木登志枝
要約
- インドのソフトウエア産業は、輸出額、人材の輩出、プロセス管理などの面で世界のトップクラスに位置するようになった。ソフトウエア産業は多額の投資を必要としない労働集約的産業であり、最も重要な経営資源は人材である。インドにおいてソフトウエア産業が発展した最大の要因は、ソフトウエア人材が豊富に存在すること、そしてソフトウエア人材を育成するシステムが存在したことにあるといえよう。人材育成システムの主体は、a.高等教育機関(フォーマル教育)、b.専門学校(ノンフォーマル教育)、c.企業に分かれる。
- フォーマル教育つまり大学などの高等教育機関では、ソフトウエア分野の人材を育成するシステムが組み込まれている。政府は、大学におけるソフトウエア開発に関連するコースの導入や専門学部、学位、および関連大学の新設を行った。こうした政府の取り組みが開始されたのは70年代であり、先進国と比較しても早かった。インドでは、独立直後より政府が科学技術教育に注力してきており、ソフトウエア分野もその一環である。プログラムや学位の内容は法律で定められた特別機関によってモニターされるなど、他国と比較して厳格な制度が存在するといえよう。
- インドの教育制度は階層化の傾向が強く、資格(学位かディプロマか)、教育機関、学位などによって社会的に共有された順位が存在する。ソフトウエア技術者のなかでは、インド工科大学などトップクラスの高等教育機関における工学系学位保持者の順位が最も高い。
- ノンフォーマル教育に分類される民間の専門学校をみると、80年代以降、学校数は増加したものの、修了生に対する業界の評価は工学系学位保持者と比べる低い。しかし、民間専門学校は、学生および社会人を対象にした実践的な教育内容を提供しており、即戦力となる人材育成が可能であること、大学に進学出来なかった者にIT教育の機会を提供していること、人材供給の調整弁であるといった特徴を持つ。
- ソフトウエア企業は、技術進歩の速いIT分野において、人材のスキル向上が業務運営上不可欠であることを認識して、企業内研修制度の充実に注力してきた。すなわち、90年代に、増加する離職者への対応および優秀な人材の確保・育成を目指し、社員にスキル開発とキャリア形成の機会を与える制度を整備し、近年では、制度の一層の充実を図っている。
- インドにおける人材育成のシステムの特徴として、大学、専門学校、企業が、それぞれ独自で人材を供給して、スキル向上を図るだけでなく、三者間で密接な提携や協力が行われていることが挙げられる。こうした三者の協力によって、日進月歩のソフトウエア技術を大量の学生に教育することが可能となっており、これが人材育成面でのインドの優位性といえよう。
- インドにおけるソフトウエア人材の供給は、将来的にも量的には需要を上回るものと予測されるが、90年代に急速に膨張した量に質が追いついていないこと、すなわち人材の質の向上が最大の課題となっている。今後は、教育機関および企業によるスキルの向上に対する一層の取り組みが必要となろう。