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RIM 環太平洋ビジネス情報 2003年1月Vol.3 No.8

コミュニティーによる森林保全と地域開発
フィリピンの森林管理政策の事例から

2003年01月01日 環太平洋研究センター 渡辺幹彦


要約

  1. 森林破壊は深刻な環境問題である。90年代に、全世界で毎年約940万haの森林が消失した。この森林破壊に対処すべく、多くの植林プロジェクトが実施されてきた。
    しかしながら、植林により一時的には森林面積は増加するものの、山火事などで破壊されてしまう例が散見される。このような森林破壊は、森林管理を担当する官庁が、植林地を確保して植林を行っても、地域の住民と植林後の森林保全について十分な合意に至ってない場合に起こりうる。

  2. このような植林政策の失敗を踏まえて、70年代から、森林保全策として「コミュニティー・フォレストリー」という考え方が生まれた。コミュニティー・フォレストリーでは、地域住民が主体となって、森林を共有・共同管理する。共同管理のルールづくりの際に、利害関係を十全に行うことが必要である。また、林業以外にも、換金作物の栽培や、畜産、集会所・学校などのインフラ整備といった地域開発を同時に行う。
    コミュニティー・フォレストリーにより、林業のための森林伐採は一定の制限に基づいて行われるので、森林破壊は止まる。また、林業以外の活動によって地域住民の福利厚生は改善することとなる。

  3. フィリピンは、森林残存面積が国土の18%であり、森林破壊が極めて深刻である。過去に多くの森林管理政策が実施されたが、森林破壊に対して必ずしも有効ではなかった。
    これに対して、95年から実施されている「コミュニティーを基盤とした森林管理プログラム(以下、森林管理プログラム)」は、コミュニティー・フォレストリーの考え方を取り入れた。この結果、森林管理の成功例が現れるようになった。森林管理プログラムのサイトの一つであるナガン協同組合では、森林管理が改善するとともに、地域開発も成功している。違法伐採はなくなり、組合に参加した住民の多くに収入の増加がみられた。

  4. 今後の森林保全政策の参考にするために、このナガン協同組合の内容を「コモンズ」という概念と「共有資源」の評価基準で分析する。
    共有資源とは、地域の自然資源が地域住民に共有されて、長期にわたり保全されてきたものである。先行研究によると、5,000もの共有資源が枯渇しないで、地域住民によって管理されてきた。このように、破壊を免れて存続してきた共有資源の特徴は、資源自体、住民などの利用者、共有や利用制度という三つの点から整理することができる。
    コミュニティー・フォレストリーも森林を共有するので、これを分析するために共有資源の基準を適用してみると、管理状況に関する特徴を整理することができる。

  5. 共有資源の基準によりナガン協同組合を分析してみると、森林管理プログラムの導入により、a.資源そのものに関する情報が確保された、b.資源に関する相互理解と資源利用方法の選択が改善された、c.コミュニティー・フォレストリーのように自治と集合的選択により資源管理がなされた、などが成功の要因であったことがわかる。

  6. 森林管理プログラム全体の教訓として、多くのプロジェクトサイトで、地域住民の収入の増加がみられたが、一方で、コミュニティーによる集団交渉や役務の提供による機会費用や取引費用が多いという点がある。

  7. 今後、森林管理プログラムを改善していくためには、プログラムへの参加に伴う機会費用・取引費用を減少させることが必要である。
    先進国が、ODAなどの形で支援を行う際には、資源状況の把握や管理技術は地域固有のものを生かし、これらの機会費用・取引費用の削減をサポートするのが望ましい。

  8. 京都議定書によって認可された排出量取引のために、今後、途上国で植林ビジネスが行われると予想される。この際には、植林地周辺に居住する地域住民と十分な交渉を行い、森林保全を達成するための利害調整を行う必要がある。これを欠く場合、焼畑や違法伐採などの被害に遭う可能性が高い。とくに、利害調整に必要な時間やコストに余裕を持った植林計画を立てる必要がある。
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