RIM 環太平洋ビジネス情報 2005年07月号Vol.5 No.18
韓国労働市場の構造変化
変化を促す三つの要因
2005年07月01日 向山英彦
要約
- 韓国では近年、非正規労働者の増加をはじめとして、若年層の就職難、所得格差の拡大、労働争議の増加など、労働市場をめぐる問題が大きな社会問題になっている。労働市場を取り巻く環境を変化させている主な要因には、経済のサービス化、通貨危機後の労働市場改革、少子高齢化の進展がある。
- 通貨危機前まで韓国の労働市場は硬直的であったが、通貨危機後、経済の構造改革の一環として整理解雇制と派遣労働制が導入された。これによりレイオフが可能となり、労働市場の柔軟性が向上した半面、失業率が急上昇した。その後、景気の急回復にともない失業率は低下したものの、非正規労働者が増加する傾向となった。
- 経済のサービス化が進展する過程で女性の労働力率が著しく上昇する一方、非正規労働者の数も増加した。これはサービス産業が労働集約的で雇用創出効果が高いうえ、パートタイム労働を通じて育児との両立が容易になったためである。
- 女性の労働力率が上昇するのにともない、韓国の合計特殊出生率は70年の4.53から85年に1.67へ急低下した。賃金が上昇したことにより、育児の機会費用(失われる所得)が上昇したことがその理由である。
- 整理解雇制の導入後、労働力の「非正規化」が強まる傾向にある。女性の場合には通貨危機以前から非正規労働者の割合が高かったため、通貨危機後の「非正規化」は特に目立った形で表れていないのに対して、それが顕著に表れたのは男性である。
- 非正規労働者の増加とならんで、近年問題になっているのが所得格差の拡大である。格差拡大の要因には多くのものがあるが、『都市家計調査』におけるジニ係数が98年に急上昇したのは、失業者と非正規労働者の増加によるところが大きい。
- 労働市場の将来を考えるうえで重要なのが少子高齢化である。少子高齢化の進展は生産年齢人口の減少として労働市場に直接的な影響を及ぼす。国連の推計(中位推計)によれば、韓国の生産年齢人口は2015年をピークに減少に転じる。このため、資本の投入と全要素生産性を高めること、女性と高齢者の労働力率を高めることが課題となる。もう一つの経路は貯蓄および投資率の低下で、この点では人的資本の強化が必要となる。
- 少子高齢化の進展はまた、社会保障制度の見直しを迫る。政府も改革に取り組み始めた。98年の年金法改正により所得代替率をそれまでの70%から60%に引き下げたほか、年金の支給開始年齢を2013年より5年ごとに1歳ずつ引き上げる。また出生率や平均寿命、実質賃金上昇率などを考慮した将来の財政収支の見通しにもとづき、保険料率を2010年以降2030年まで5年ごとに見直す方針である。
- 以上のように、韓国では短期的には若年層を中心にした雇用創出と増加する非正規労働者問題への取り組みが急がれる一方、長期的には少子高齢化社会に適応した社会経済システムの構築に迫られている。