RIM 環太平洋ビジネス情報 2006年01月号Vol.6 No.20
拡大するアジア個人金融市場と欧米金融機関の取り組み-邦銀のアジア業務再構築への検討課題
2006年01月01日 調査部 環太平洋戦略研究センター 高安健一
要約
- 1990年代後半より、アジア諸国(NIEs、ASEAN4、中国)の個人金融市場が急拡大している。個人部門向け貸出市場は、住宅ローンを牽引役に順調に伸びており、銀行貸出に占める割合を大きく高めている。資産運用市場は、金融資産の蓄積と資本市場の発達を背景に拡大している。預金市場、貸出市場、株式市場、債券市場などの規模を比較すると、アジア諸国は成熟市場であるNIEsと新興市場であるASEAN4に二極化している。中国は、98年に商業銀行の個人向け貸し出しが開始された新しい市場である。
- 資金循環統計でアジア諸国の個人金融資産構成を比較すると、a.韓国は預金・現金の割合が日本と拮抗している、b.台湾はアメリカに近く株式および投資信託の割合が大きい、c.中国は資本市場が未発達なことを反映して預金・現金の比率が極めて高い、との結果が得られた。中韓台の3カ国では、すでに老年人口(65歳以上)が総人口の7%を上回る高齢化社会に移行していることを反映し、個人金融資産に占める保険・年金準備金の割合が高まっている。
- わが国を含むアジア太平洋地域には、欧米と比肩する規模の富裕者市場が存在する。欧米金融機関はプライベート・バンキングを、オフショア市場を中心に展開している。シンガポールは、政府の振興策が奏功しアジアの資産運用市場としての基盤を固めている。
- 個人金融業務をグローバルに展開している有力欧米金融機関(シティグループ、HSBCホールディングス、UBSなど)は、アジア市場の開拓に積極的に取り組んでいる。国としては中国市場の潜在力を評価し、地場金融機関への出資を含めて具体的な戦略を展開している。ただし、多くの国々においてフルラインで金融サービスを提供しているのは、シティグループとHSBCホールディングスに限られる。
- アジアでは、支店開設・多店舗展開、地場金融機関への出資、資本取引などが規制されている国が多く、外国金融機関の活動が制約されている。経済連携協定(EPA)をアジア諸国と締結するに際して、金融分野の市場開放を求めていく必要がある。
- 邦銀が、少子・高齢化が急速に進む国内に集中してきた経営資源を、相対的に高い成長が期待出来るアジアに分散することを検討する際に、個人金融業務は重要な分析項目の一つとなりえる。アジアで個人金融業務を展開するためには、a.邦銀の格付けの回復、b.ローコスト・オペレーションを実現出来るビジネス・モデルの構築、c.注力すべき顧客セグメント、業務、国の明確化、d.地場有力銀行の買収あるいは強固な提携関係の構築などが必須である。
邦銀は必ずしもフルライン戦略を展開する必要はなく、クレジット・カード、年金関連、資産運用、消費者金融などの業務から手掛けることも検討に値しよう(国内においてアライアンスを形成している機関との協働を含む)。また、邦銀は、今後国内の個人金融資産がこれまで以上に新興成長国へ向かう可能性があるため、リスク管理の視点も含めてアジア全体の資金フローを把握出来る体制を整えるべきである。 - 邦銀の国際業務は、香港やシンガポールなどの国際金融センターを中心に行われている「多国籍ホールセール銀行業」や、アジアに進出した日系企業に現地で金融サービスを提供する「多国籍サービス銀行業」にほぼ限られてきた。これらに「グローバル個人金融業務」が加われば、邦銀の収益構造(業務別・地域別)が有力欧米金融機関に近づくきっかけとなろう。