Business & Economic Review 2009年8月号
【REPORT】
電気自動車への過度の期待を廃し、複合型の交通システムを築け
2009年07月25日 創発戦略センター 研究員 宮内洋宜
- 電気自動車は地球温暖化対策の有力な手段の一つであり、日本の産業界が活力を取り戻すための切札になりうる。電気自動車の普及が軌道に乗り、継続的に拡大していくためには、政策の後押しが必要となる。全方位的な支援策を実施すると負担が大きいため、電気自動車の役割を見極めた普及策に集中すべきである。
- 近く発売される電気自動車は十分な動力性能を有し、コストの低下やさらなる性能向上が期待されるなど、普及に向けた大きな可能性を秘めている。
- ただし、技術革新が進んでも電気自動車が内燃機関自動車を完全に代替することは難しい。電気自動車の本質的な技術限界は航続距離の短さにある。電池容量の増加や充電インフラの整備により航続距離を伸ばしていくことはできるが、化石燃料と比べてエネルギー密度が低い蓄電池を使う限り一定の限界が存在する。
- 電気自動車が第1に担うべき役割は、現在軽自動車が守備範囲としている短距離の移動である。そのため、普及の初期においては短距離ユーザーを獲得するための集中投資を行うべきである。その際に優先されるべきは急速充電器の整備ではなく、家庭や事業所単位で設置する屋外電源設備である。普及中期においては急速充電器へのニーズが高まると予想されるが、稼働率が確保できるよう事業者が自家用インフラとして整備することを考慮するべきである。インフラと電気自動車を両輪とする普及の好循環を生み出す必要がある。
- 普及が進むにつれ、当初想定される用途からの染み出しが生じるようになる。電気自動車はより長距離の移動を担うようになるが、大量長距離の輸送などは守備範囲には入らないものと予想される。自動車への過度の依存を廃し、鉄道、船舶、航空を含めた複合型の交通システムを築くべきである。