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Business & Economic Review 2009年7月号

【特集 世界経済危機と新たな金融システムの構築に向けて】
新興国台頭下の世界金融システム

2009年06月25日 アジア開発銀行総裁 黒田東彦


目次

  1. はじめに

  2. 世界金融危機の原因と対応

  3. G20における議論の展開

  4. 新しい世界金融システム

1.はじめに

2008年8月に米国でサブプライム問題が勃発したとき、それがこれほど巨大な世界金融危機に発展するとはだれも思っていなかっただろう。しかし、2009年9月のリーマンブラザーズ破産によって一挙に深刻な世界金融危機がもたらされ、世界経済は戦後はじめての同時不況という危機に陥ったのである。いくつかの最近の指標は最悪の世界金融危機の終焉が近づきつつあることを示しているが、世界経済危機が克服されるにはまだ時間がかかりそうである。しかも、危機後の世界金融システムが再構築されるのはさらに先のことになるだろう。

ただ、世界金融危機が深刻化するなかで、従来のように先進国のみのG7が中心になって対応策を議論するのではなく、G20(注1)という新興国を多数含んだ国際会議が前面に出て危機脱却のための処方箋と将来の世界金融システムのあり方を検討したことは、新しい世界金融システムの下での新興国の台頭を強く予感させるものだったといえる。

本稿では、まず、今回の世界金融危機の原因が何であり、この危機に対して米国などがどのように対応してきたかを振り返ってみる。現在の世界金融システムのなかにその原因の一部が潜んでいる可能性があるからだ。ついで、昨年から今年にかけて危機対応と将来の世界金融システムに関する議論を先導したG20について、その議論の展開を検討し、危機が収束する方向を展望することとする。そのうえで、新興国台頭下の新しい世界金融システムを模索してみることとするが、将来の世界金融システムのあり方には複数の可能性があると思われることから、それらのプラスとマイナスを明らかにすることとしたい。

なお、本稿はあくまでも著者の個人的意見であり、アジア開発銀行の公式見解とは限らないことをお断りしておく。

(注1)G20には、G7の日、米、英、独、仏、伊、加のほか、アジアから韓国、中国、インド、インドネシア、オーストラリア、中南米からメキシコ、ブラジル、アルゼンチン、中東からサウジアラビア、トルコ、アフリカから南アフリカ、さらに欧州から EU、ロシアが参加している。G20は、1997、98年のアジア通貨危機の後、世界金融システム改革に関する議論に新興国を多く参加させるためG7が設立を呼びかけたものであり、各国の財務大臣と中央銀行総裁がメンバーとなっている。今回の世界金融危機に直面してはじめてG20の首脳会議が行われた。
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