Business & Economic Review 2011年5月号
【STUDIES】
経常利益の変動性と予想可能性の実証分析-将来利益・予想利益と利益変動との関係性を考える
2011年04月25日 新美一正
要約
- 利益の予想可能性に対して、利益の変動性水準が影響を与えることは直観的に明らかであるが、こうした点を明示的に考慮した実証研究は、ほとんど行われてこなかった。
- 近年、公刊されたDichev and Tang[2009][3]は、こうした実証研究の隙間を埋める貴重な研究成果であった。彼らは、1984~2004年にかけての北米企業の財務データを用い、将来利益に対して、直近5期分の標準偏差で定義された利益の変動性が、統計的に有意な影響を持つこと、および、利益変動性が最小となる五分位ともっとも大きい五分位で、アナリストの予想利益誤差に、統計的に有意な差が存在する、という二つのファクト・ファインディングを得た。とりわけ後者の発見は、利益変動性の影響を正しく予想利益に反映させることで、予想利益の精度向上が期待できるという点で、実務面への示唆が大きい。
- 本稿では、このDichev and Tang[2009][3]に触発される形で、国内企業の現実の財務データを利用して、経常利益の変動性(直近5期の標準偏差)と、当期から5期先までの将来利益、およびアナリストが提供する1期先の予想利益(『日経会社情報』ベース)との間の関係性を実証的に検討した。
- 本稿における考察結果は、以下の3点に集約できよう。
(1)経常利益の変動性は、1期先利益の持続性・予想可能性に対して、売上高の変動性やアクルーアルズ(絶対値)水準などの要因と同等以上の影響力を持っていることがわかった。
(2)将来利益の時間視野を3~5年程度の中長期に延長すると、経常利益の変動性が利益の持続性・予想可能性に与える影響力はさらに顕著なものとなった。言い換えれば、中長期の利益予想を行う場合に、利益変動性の影響を考慮することで、予想精度の向上を期待することができる。
(3)経常利益の変動性が大きい企業群におけるアナリスト予想利益と実現利益との差(予想利益誤差)には、有意な持続性(正の系列相関)が検出された。変動性が小さい企業群においては、こうした系列相関関係は看取されない。このことは、利益の変動性が大きい企業群に対する利益予想形成においては、過去期の利益情報が効率的に利用されていないことを示している。