Business & Economic Review 1995年12月号
【OPINION】
特別会計の民営化・統廃合を進めよ
1995年11月25日
96年度落Z編成、そして21世紀に向けた財税制の姿を求め、政府の税制調査会や財政制度審議会の論議が本格化している。こうした財税制改革や毎年度落Z編成の論議、そしてそれを巡る新聞・テレビ等の報道の主役は、これまで常に一般会計であった。しかし、一般会計に限定した論議を続ける限りは、財政当局が主張するとおり、日本財政の危機的現状を乗り越える手段として「増税」の選択肢しか見えてこないのはむしろ当然の結果といえる。
一般会計は、確かに国の落Zの「要」である。しかし、同時に国の落Zのひとつの「窓」に過ぎない。規模の大きさで見ても、95年度当初落Zベースで一般会計の総額が70兆9871億円なのに対し、特別会計は240兆円強(歳出ベース)と一般会計の3倍以上に達している。しかも、一般会計総額の80%以上が特別会計を中心とした他会計への繰り入れという実態を踏まえれば、一般会計に限定した論議に大きな限界が存在することは明確である。そうした限定的な議論が抜本的な財政再建に対し決定的な力を有しないことは、誰の目にも明かである。
政府財政制度審議会基本問題小委員会が、10月9日に開かれた初会合で96年度落Z編成までに財政の抱える基本的問題点の論点整理を行うことを決め、その中で「財政システムの改革」が必要との認識を明かにしたことが報じられている(日本経済新聞10月10日朝刊)。この報道どおりの認識が形成され、それに基づく取り組みが行われるとすれば、「出口なき閉塞状況」から脱却し新たな日本財政の姿を模索するため画期的な一歩が踏み出されたことになる。
財政改革において特別会計に焦点をあてた論議が必要な大きな理由のひとつとして、現在落Z配分の中でも特に問題となっている公共事業、社会資本整備の活性化・効率化があげられる。特別会計にはタテ割による所管官庁の下で、道路・港湾・空港等特定財源により特定の社会資本整備を行う目的で設置された会計が多く存在する。こうした特別会計を通じた特定財源による社会資本整備は、今日の日本経済・社会を生み出すため大きな役割を果たしてきた。
しかし、タテ割りによる社会資本整備の硬直的状況から脱却し、効率的な事業別プロジェクトによる社会資本整備や民間資金の拡充を実現すること、さらにはややもすると特定財源を維持するため事業の拡大を図るといった傾向に陥りがちな行財政の肥大化から脱却するため、特別会計のリストラが不可欠となっている。そこでは、特殊法人だけでなく行政の中核を担う特別会計自身にまで遡った民営化を検討する発想が必要となる。加えて、公共投資の「公共」概念を再検討し、規制緩和の推進とともに、民間企業による社会資本の整備・運営を可狽ノする道を積極的に開くことが、公共事業費の配分比率を見直し・社会資本の効率的重点整備、さらには「小さな政府」を目指すため不可欠な取り組みとなる。
なぜ、こうした特別会計の見直しがこれまで本格化しなかったのか。その理由の第一は、38存在する特別会計が、タテ割り行政の下で税負担と財政資金配分の固定化・既得権化を生じさせてきたことにある。特定財源・特定歳出化は、受益と負担を明確化し一定の施策を集中的に実行するためには威力を発揮するものの、一旦特定されると歳入・歳出両面で既得権化し、一般会計以上に税負担の根雪化と財政配分の硬直性を強める原因となる。
このため、行財政を巡る既得権体質を深めると同時に、新規の財政需要に対応するための財源は、どうしても税負担の引上げや国債の増発等に求められやすい体質を生み出す。消費税引上げによる増収の使途や細川政権が提示した国民福祉税国zでも、高齢化対策等に特定するため特別会計とすることが論議されたことは記憶に新しい。特定財源化、特別会計の設置は負担と受益を明確化すると同時に、政策遂行を容易にする。しかし、税負担や財政配分の硬直化や行財政の既得権化をもたらすことを忘れてはならない。このため、そこでは特定財源とする可否と同時に、財源と使途に対する不断の見直しが必要となる。
理由の第二は、特別会計ごとに公務員の落Z定員が設けられており、その見直しはヒトを含めた厳しい行革に結び付くことである。国の行政組織は一般会計のほか特別会計によって支えられており、特別会計の落Z定員は約60万人に達している。特別会計の見直しは、事務官・技官両面において省別・局別の公務員の削減等を直接迫ることになる。
もちろん、特別会計でも合理化に向けた再建努力はなされてきた。95年度落Zでは、特別会計所属職員の人数の削減に取り組まれている。とくに、赤字体質が深刻化している国有林野事業特別会計では1万2846人から1万1391人に1455人削減する等の努力がなされている。しかし、タテ割による個別特別会計ごとの合理化努力と同時に、特別会計の民営化や統廃合等国「的な見直しへの取り組みが進めらる必要がある。
消費税や法人税等税体系全体の改革、財政赤字からの脱却に真剣に取り組んでいかなければならない。しかし、減税実施や財政悪化への対応の選択肢が「増税」だけという安直な発想はもはや許されない。ゼロ成長を前提に厳しいリストラに取り組む企業同様、財政においても特別会計の既存財源とその使途をタテ割を越えた中で見直す時を迎えている。