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Business & Economic Review 1995年12月号

【MANAGEMENT REVIEW】
情報化維新と個人の情報化

1995年11月25日 事業戦略研究部 香取邦彦


1.情報化維新

情報技術を駆使したさまざまな新しいサービスの提供やその実験は、昨年以来まるで津波のように押し寄せ、われわれの身近な生活や企業内での活動を変えようとしている。トフラーの言った第3の波は企業活動を主眼としたものであったが、今回の情報化の波は個人の情報技術利用の可能性と企業における個人の情報化のあり方を革新的に変えるものである。

たとえば、てもとにあるパソコンからインターネットを通して誰でも容易に企業の沿革や新商品の情報を調べたり、米国議会図書館の議会情報サービスで最新の議案内容や議事録を参照することが可能である。また、電子メールやグループウェアを使い、メンバーの進捗状況を確認しながら協同作業を進めることもできる。少し詳しい人であれば、収集したい情報をパソコンに記憶させておき、毎日ネットワークから自動的に情報を引き出させることさえもできる。

2.個人への情報技術導入の取り組み

インターネットのようなネットワーク上では、個人であろうと大企業であろうと対等である。平等に情報が入手でき、平等に情報を提供できる。そこで、情報技術を積極的に個人の業務に取り組もうとする人としない人ではその差は歴然と現れる。積極的に取り組む人にはその可能性が無制限に広がるだろう。

しかしながら、個人の情報化に力を入れている企業はさほど多くはない。ほとんどの企業は生産管理や会計といった業務システムの導入や改訂には大きな感心を持つが、個人の情報化に着目している企業は少ない。

3.個人の情報化に必要な3つのリテラシー

個人の情報化のために必要とされる能力は、コンピュータ・リテラシー、コミュニケーション・リテラシーそしてビジネス・リテラシーの3つである。

コンピュータ・リテラシーはパソコンを利用するための基礎的な能力である。ただし、コンピュータを利用するための、ハード、ソフト両面からのヒューマン・インターフェースの改善は着実に進んでおり、銀行のATM操作のように簡単になるのは時間の問題と考えられ、将来的にはこの負担は軽減するだろう。

次に、コミュニケーション・リテラシーはアクセスしようとする情報に迅速にそして正確に到達するための能力で、インターネットでの標準言語となっている英語能力やデータベースの検索能力のことである。

最後のビジネス・リテラシーは社会的な生活やビジネスを行ううえの基本的なマナーの理解のことであり、電子メールなどを利用する場合の必要最低限度の礼節をわきまえたり、短い文章での効果的な報告のしかたなどの業務への円滑な適用のために必要となる。

これらの3つのリeラシーは、迫りくる「1人にパソコン1台」の時代には、必ずや企業における個人能力の必要条件に加えられるだろう。そして、3つのリテラシーは社員教育でたたき込まれるようになるし、日常の業務やビジネスを遂行するための基本的な能力として、その能力の差が密接に評価と関連するようになるだろう。

4.企業活動へのインパクト

このように、個人の情報化とは個人が活躍できるフィールドが広範囲になり可能性が増すということと裏腹に、今まで以上の能力とセンスが要求される。情報を駆使し、収集から加工までを一手に引き受ける人間が出現するのと同時に、情報から取り残されついていけずドロップアウトする人間も出現するかもしれない。その結果、従来1つの部門が担当していた業務を個人か2~3人の少数のチームにまかせることになり、企業におけるそれぞれの業務のスリム化が進むだろう。

米国のホワイトカラーに比べ、日本のホワイトカラーの生産性は半分から3分の1というような報告もあるなか、個人の情報化は生産性を米国並に引き上げる大きなちからとなりえる。

さらに、個人の情報化が進み互いに協調をとりつつ業務を進めることができるようになると、情報のジャストインタイム化が進み、その結果、作業や処理時間が短縮できるようになるだろう。つまり、問題や作業に取り組むためのウォームアップ時間を極度に削減し、実質的な検討時間とその集中度を高めるのに役立つ。既に電子メールや電子データでの伝送は社会基盤の一部となりつつある。これは、時差のある海外とのビジネスには非常に効率的である。時代の趨勢は個人の情報化による企業活動の効率化へと進んでいる。

最近はリエンジニアリング(BPR)に取り組みつつ、ワークフローやグループウェアなどのアプリケーションを導入する企業が増えている。しかしながら、情報を駆使するという視点での個人の情報化、情報のジャストインタイム化、そしてリテラシー教育を進めないかぎり、BPRによる本当の効果は得られないだろう。

情報技術を背景とした個人の情報化の必要性を機会ととらえ、自社の強みに結び付けていくためには、トップマネジメントの柔軟な頭と進取の精神が欠くてはならないものである。さもなくば、情報化時代における孤児となりかねない。

まだ「個人の情報化の波」を体験したことがないトップマネジメントの方々には、ぜひとも一度インターネットを「ゲット」してみることをお勧めする。
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