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Business & Economic Review 1996年10月号

【論文】
マーケティング・プロセスの効率性追求-リレーションシップ・マーケティングのアプローチ

1996年09月25日 額宮良紀


1.高コストの営業体制へのメスが必要

市場の成熟化とともに、多数の企業で「新規顧客ではなく既存顧客からの取引を拡大せよ」と、リレーションシップ・マーケティングの発想を事業運営に取り入れてきた。しかし、このような取り組みにもかかわらず、利益の飛躍的拡大等の業績に直結できず、具体的な成果をあげることができない残念な結果となっている企業が少なくない。

もともとこの発想は、顧客とのより長期的な信頼関係を強調し、満足度(CS)を高めることで事業機会を拡大しようとするものであった。従来から、個々のビジネスの成果が、関与する者同志の関係によって左右されることは日常茶飯事で珍しいことではなく、リレーションシップ・マーケティングの導入が失敗に終わっている原因も、顧客の囲い込み(リテンション)といった着眼点そのものにある訳ではない。

むしろ、従来の高コスト体質の営業組織体制を維持したまま、顧客とのリレーションシップを深めるための業務プロセス導入を試みたという「変革のアプローチ」に原因のあるケースが多い。

このようにリレーションシップ・マーケティングが業績アップの決め手とならず慌てた企業のなかには、予算管理と称して十把ひとからげにマーケティング・コストを削減したため営業活動全体を委縮させてしまったところがある。あるいは、適切なインフラ整備投資まで凍結したため、せっかくの「顧客満足度の向上」への取り組みが営業マンの接客方法に工夫を加える程度のスローガンの域を出ない精神論に終始してしまう、という企業の事例も多く見受けられる。

こうしたケースにおいては、本来、売上拡大に大きく期待できない以上、既存顧客を死守しながらもコスト構造を抜本的に効率化し、「減収増益」をも実現できる位に既存の営業組織や業務プロセスにメスを入れるべきであった。

つまり、リレーションシップ・マーケティングを、顧客ニーズ対応の視点から自社の経営資源(人、モノ、金)の効率的活用を追求し、その最適配置を調整するための継続的な「業務プロセス」と捉え、企業変革のトリガーとすることが求められている。

2.効率性向上ツールとして

既存の営業マンが主体であるプロセスを見直し、コスト・パフォーマンスに優れた手法を事業運営の仕組みとして展開するうえでは、リレーションシップ・マーケティングを効率性向上のツールとして位置付け、顧客との接点(コンタクト)ごとに、投入する活動および実施方法を効率性の視点より評価・選択し、そのために必要なインフラ整備の投資を行うことが重要な課題である。

この課題を解決するためのポイントは、[1]自社にとって重要な顧客すなわち儲かる顧客とそうでない顧客を識別すること(顧客の区別化)、[2]顧客層ごとの対応方法を選択すること(コンタクト・アプローチの差別化)、[3]顧客別の収益性を把握するしくみをつくること(パフォーマンス・モニターのシステム化)、の3ステップでアプローチすることである。

3.収益性重視のリレーションシップ確立

(1)顧客の区別化

顧客の属性やビヘイビアの違いによって、コンタクト・アプローチの方法論や自社の業績(収益)に対するインパクトは大きく異なる。顧客ごとの期待収益を正しく判断したうえで、自社のマーケティング資源を配分する必要がある。

具体的には、図表1のような顧客の分類を実施する。顧客の現在および将来の購買力を評価する「生涯顧客価値」と、現在の取引の状況を評価する「リレーション」の2つの軸から、顧客のポジションを把握することで、個別のマーケティング政策の基本フレームを抽出する。

(2)コンタクト・アプローチの差別化

基本フレームに沿ったマーケティング・プログラムを展開し、結果として売上拡大や収益性の向上などの業績を残すためには、顧客ごとの期待収益と、自社が提供するサービスレベルやマーケティング・コストとがバランスして確実に収益を稼げることがキーポイントである。したがって、高コストな人的営業活動に偏った従来の顧客との接触パターンを見直し、ダイレクトメールやテレマーケティング等のローコストな手法を、ターゲット顧客の特性に対応して組み合わせ、多面的なマーケティング活動へ移行する。

ここでは、顧客の期待収益の大きさにみあったコストを要する組織機能を、プロセス上の各段階(コンタクト・ポイント)ごとに選択する(図表2)。さらに、各個別機能・活動や顧客情報はもれなく顧客データベースによって一元管理し、リレーション拡大のための情報活用を進める。

例えば、重点対応顧客では、プロセスの全体にわたってセールス部門を中心として高付加価値サービスを提供することでコンタクトを展開するが、効率化顧客では、外部のダイレクトメール業者への委託等、ローコストな手段を中心として最低限のコンタクトにとどめる。その結果、自社の人的営業パワーを収益の大きい、あるいは将来の収益拡大期待の大きい顧客の集中的な訪問活動の形で投入することが可能となり、全体として営業・マーケティング活動の効率を抜本的に高めることができる。

(3)顧客別の収益性評価

新しいプロセスを確立した後も、顧客へのコンタクト・アプローチが効果的に遂行されていることを把握し、必要があればタイムリーに改善を行う必要がある。そこで、顧客別収益性の視点を重視した業績モニターシステムを導入する。顧客ごとの収益性の経年(月別)変化を追うことで、コンタクト・アプローチをより適切なものへと修正する(図表3)。例えば、純利益ベースの把握に加えて、貢献利益の考え方を導入する。貢献利益がマイナス、すなわち固定費回収にも貢献できない顧客については、将来的な発展性についても検討を加えたうえで、より低いコストのコンタクトアプローチの組み合わせに変更する、等の対応をする。

このシステムが機能し、顧客別の収益管理を徹底的に実施するための留意点としては、役職者訪問、営業担当者訪問、ダイレクトメール、テレマーケティングといった各アプローチ手段ごとの一回あたりのコスト、および個別のマーケティングプログラムのコストを算定できるようにしておく必要がある。

4.古くて新しいチャレンジ

以上のアプローチでは、従来の組織の枠組みにとらわれることなく、商談、受注、顧客相談、請求等、顧客との接点を持つ業務はすべてリレーションシップ機能として全社的な視点から、思い切った再統合が行われる。そのため、営業拠点や本社の支援部門等の部門の役割や位置付けも当然、大きく変わることになる。したがって、この変革活動を推進する立場としては、新しいマーケティング・プロセスが定着し安定的に運用されるようにするために、営業拠点長やバックオフィス等、全社のメンバーに対する、新たなスキル・キャリアパス・教育体系の再整備に留意しなければならない。

このように、リレーションシップ・マーケティングの発想は、販売力向上の方策としては従来の営業部門にとっては古いテーマであったが、コスト効率性向上のテンプレートとしてみると、全社的なプロセス改革に発展させることが可能である。「顧客とのリレーション深耕」を、単なる精神論で終わらせるのではなく、業績目標達成のための企業変革チャレンジとして見直すべきである。

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