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Business & Economic Review 1996年04月号

【OPINION】
「内からの情報化」を急げ

1996年03月25日  


わが国企業の情報ネットワーク化が進展している。郵政省によれば、95年における企業の情報ネットワーク利用率は、電子メールが25.8%、LANが53.2%であり、具体的な利用嵐閧フある企業も含めるとそれぞれ49.7%、71.0%に上る。また、インターネットについては、従業員数 2,000人以上の大企業のうち34.3%がすでに利用しているという。もっとも、「Eメール 読んでくれたと 電話かけ」との川柳が揶揄するように、どこまで活用できているかには疑問が残る。

では、何のための情報ネットワーク化なのか。この点を考えるにあたっては「情報化先進国」アメリカの事情をみておくことが参考になろう。90年代に入って以降、半導体処理迫ヘの飛躍的向上、高度通信技術の発展、より使いやすいャtトウェアの開発等、アメリカにおいては目覚ましい情報技術の革新が進展している。そして、こうした情報技術を積極的に活用することにより、アメリカ企業は経営革命を達成し、80年代に低下した国際競争力を大きく回復してきている。さらには、既存の産業の枠を越えた企業間の提携・合併の動きがダイナミックに展開され、このもとで、バーチャル・コーポレーション、ビデオ・オン・デマンド、サイバー・モール、エレクトロニック・マネー等のサイーバースペース創造に向けての取り組みが活発に行われている。こうした取り組みを通じて、コンピューター・通信・放送・映像・娯楽産業が融合された次世代のリーディング・インダストリーが形成されつつある。このように、アメリカでは、情報ネットワーク革命が既存の企業・産業のあり方を大きく変え、さらにはサイバースペースという新たな市場を創造することを通じて、経済・社会全体の活性化に繋がっているのである。

翻ってわが国の現状をみると、情報化への関心は大きな盛り上がりをみせてはいるが、情報技術の経営革新への活用やサイーバースペース創造への動きという面ではアメリカのはるか後塵を拝している。わが国では、これまでのやり方を変革しようという意欲に裏打ちされた「内からの情報化」の動きはようやく緒についたばかりであり、目的意識が曖昧なままの右へ習え式の「外からの情報化」が大勢を占めているのが実情であろう。

しかし、「内からの情報化」と「外からの情報化」がもたらすものは全く異なる。前者がサイバースペース上の新事業創造を通じて、経済・社会全体に変革のダイナミズムをもたらすのに対し、後者の意味するところは「空洞化」である。今後着実な進展が卵zされるサイバースペースの拡大・深化とは、従来フェイス・トゥ・フェイスで行っていた商取引・商決済等が、パャRン等の端末操作を通じて遠隔地間でも瞬時に処理可狽ネ形態に取って代わられるということを意味する。この結果、製造業のみならず通信・流通・金融といった非製造業にとっても国境が消滅する「サービス大競争時代」が到来することになろう。このもとで、日本企業が単にツールとしての情報ネットワーク化を進めるだけで、自ら魅力あるサイバースペースを創造していくことが出来なければ、アメリカなど海外の先進的企業が、従来型の商取引・商決済を日本企業から次々に奪取していくこととなろう。つまり、情報ネットワーク化が産業空洞化をもたらすという皮肉な結果になり兼ねないのである。

こうした事態を回避するためには、以下の取り組みを通じて、経済・社会に変革のダイナミズムをもたらし、日本発の内容豊かなサイバースペースを創造していくことが急務といえよう。

第一は、意識革命・経営革命の遂行である。経営トップのみならず個々の社員のレベルにおいて、情報ネットワーク革命の意義をもう一度見直し、目的意識を明確化した上で「内からの情報化」に取り組む必要があろう。それは、個別ごとの既存業務合理化のレベルを越え、組織ストラクチャー・管理システム・業務スタイル等にわたる経営全般の革新を通じて、飛躍的な生産性向上を達成すべきものであり、さらには、サイバースペース上に新たな事業を創造していくことを目指すものでなければなるまい。

第二は、通信コストの引き下げである。アメリカの10倍ともいわれるわが国の通信コストの高 さが、サイバースペース拡大の障壁となることが懸念される。その主因は、規制・行政指導に より通信・放送市場が細かく分断され、競争原理が助ェ働いていないことに求められる。異業 種の相互参入を通じた競争促進が通信コスト引き下げの基本的要件であり、透明な回線接続ル ールを確立した上で、情報・通信・放送分野の規制は全廃すべきであろう。

第三は、創造的人材の育成である。サイーバースペース上に乗せられる情報内容の質を決めるのはそれを生み出す人材の創造性であり、それゆえに有狽ネ創造的人材の育成に向けて、企業・大学双方が改革に取り組むことが肝要である。企業としては独創性発揮のインセンティブとなる迫ヘ主義の徹底や、日進月歩の技術革新にフォローしていくための迫ヘ再開発システムの穀z、等が不可欠の課題となる。一方、大学は技術と経営の両者に通じた人材の育成に資するべきであり、さらに、産学協力・国際間協力の積極化を通じて実用的知識の創造センターに脱皮していくことが求められよう。
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