Business & Economic Review 1996年01月号
【論文】
96年度経済見通し-新たな市場創造に向けて-
-求められる財政リエンジニアリング-
1995年12月25日 調査部
要約
わが国経済は、95年入り以降相次ぐ不測の事態に遭遇するなかで、93年10月以降持続してきた景気回復局面に変調が生じ、95年4月以降は景気調整局面に移行したものとみられる。こうしたもとで、夏場にかけて在庫が急激に積み上がり、95年いっぱいは生産活動を中心に景気調整局面が持続した模様である。
90年代入り以降今日までのわが国経済を振り返っておくと、バブル崩壊後の中期下降局面が持続するもとで、93年秋以降は景気のミニ・サイクルが生じてきた。中期下降局面が続く限り、景気回復はミニ・サイクルにとどまる状況が持続するとみられ、96年度経済についても、依然として国「調整過程が持続するもとでの2回目のミニ回復局面として位置づけられよう。このため、景気のコースとしては、年度前半には上向くものの、後半以降は公共投資の息切れを主因に回復テンポが鈍化していく可柏ォが大きい。この結果、96年度の実質経済成長率は 1.9%と95年度( 1.0%)よりは高まるものの、なお本格回復にはほど遠い状況が持続する見通しである。
情報・通信産業の急成長、小売業での新たな動き、個人向けサービスの堅調、等近年新たな成長に向けての動きの萌芽がみられているが、96年度はこうした動きが一層進展する見通しである。しかしながら一方で、既存分野における産業空洞化の進行、名目低迷下で遅延する企業体質の改善、資産デフレの重圧、といった国「調整圧力が依然として既存産業分野を下押しするため、経済全体としては「二極化」が進行するなかで不況感が根強く残る状況が持続しよう。
わが国経済が、本格的な景気回復を実現するためには、資産デフレの調整、水平分業進展に伴う産業国「調整、新産業の成長を通じた産業国「転換、の三つの国「調整に目処をつけることが必要である。とりわけ、本格的成長軌道への復帰を早期に達成するためには、新産業のスムーズな成長が最大のポイントとなり、その意味で、96年度を「市場創造期元年」と位置づけ、民間主導での新たな市場創造に向けて総力を結集すべきであろう。
一方、公共事業を中心とする公的セクターの生産性は近年低下傾向にある。この根因は、今や制度疲労に陥った硬直的な現行財政システムにあり、増税と歳出削減を通じた単なる財政再建では公的セクターの効率化は実現不可狽ナあり、財政体質健全化に向けた解決策にもならない。これらを同時達成するためには、公的セクターの質・量両面にわたる抜本的な見直しを通じた「財政リエンジニアリング」が不可欠である。
(1)公共セクターの役割の再穀z
まず、財政支出は排除不可柏ォをもった純粋公共サービスに限定し、選択性のある準公共サービスは民間が供給するという原則を明確化し、一般歳出の改革に着手することが必要。その上で、公的企業の整理・統合を進めるとともに、地方ごとのニーズに合った公共サービスが提供できる財政システムを穀zすべき。
(2)財政スタビライザー機狽フ強化
貯蓄超過(経常黒字)経済における財政赤字の量的規模は問題ではなく、真の問題は非効率な歳出国「の温存等質的な面。質の見直しによりスタビライザー機狽ェ強化されれば、波及効果が高まり財政赤字は結果的に縮小。
(3)税制の歪みがもたらすディス・インセンティブ効果の排除
租税特別措置の見直しや赤字法人に対する課税適正化を通じて、利益計上法人に対する重課税を是正し、また、保有税の整理・適正化、流通課税の適正化などにより、土地税制を再穀zする必要。
さらには、自己責任原則が徹底された金融界を穀zするために、「金融リエンジニアリング」を断行することが喫緊の課題といえよう。