Business & Economic Review 1996年01月号
【PLANNING & DEVELOPMEN】
進歩のための縮小2-都市行政の視点からの具体的方策
1995年12月25日 社会システム研究部 太田康嗣
本誌94年12月号で「進歩のための縮小」という概念を紹介した。今回は、その具体的方策を主に都市行政の立場から提案したい。「進歩のための縮小」とは、1980年代にドイツの都市計画に導入された概念で、新たに「建設する」あるいは「拡大する」ことのみを進歩としてきた考え方を改め、場合によっては「縮小による質的向上」こそが進歩のための最善の選択肢であるとする考え方である。わが国でも人口減少時代を目前にし、また、環境問題の深刻化や社会資本維持コストの膨張に直面する現在、進歩への余力を確保するために、この考え方を検討すべき時期に来ていると思われる。
1.現代都市の課題
進歩への余力を確保するという点から言うと、現代都市は、都市国「が平面的に広がりすぎた結果、効率的な社会基盤整備が困難になる一方で維持コストが増大している。また、移動手段に自動車が多用されることもあいまって、環境負荷(環境コスト)も急激に増大している。都市システムの運営に関して言うと、公共の利益の名のもとに「平均像」を対象とするパターン化されたサービの提供を行ってきたこれまでのやり方が、人々のニーズが多様化により、多くの分野で非効率で効果が少なくなりつつある一方で、福祉やまちづくりなど行政だけでは、経済的にも労力的にも対応できない分野が増えてきているなどの課題を抱えている。
これらの課題に対応し、進歩への余力を確保して行くために、次の3つの提案をしたい。
2.具体的方策
(1) コンパクトシティ化
まず、ハード面からは、コンパクトな都市国「、すなわち「コンパクトシティ」化していくことが考えられる。
コンパクトシティというと、一般には、G.ダンツィクらが描いた人工地盤を積み重ねた多層都市モデルを指すが、ここでいうコンパクトシティは、R. レジスターが著書「エコシティ」で提唱した自然・生活環境重視の中規模都市をイメージしている。 コンパクトシティの基本コンセプトは「三次元国「」と「ノーカー国「」で、空間の高度利用と公共交通ネットワーク整備により、環境負荷とエネルギー消費が小さく、かつ都市機狽フ維持コストが小さい都市国「を目指す。
(2) 長期落Z方式の導入
行政システムについては、長期落Z方式の導入が必要であると考える。現在の行政システムは単年度落Zを前提としているため、時として長期的視点からの最適選択ができないケースが起き、それが財政負担を大きくする原因となっている。長期落Z方式では、例えば10年程度の歳入・歳出を見通すことになるため、自ずと長期的な問題点や方向性が見えてくる。また、事業の優先順位や最適な実施時期などの検討が必要となることから、効率的で効果的な施策展開を導く効果もある。
(3) 第4セクターの設立
最後に、都市という社会システムの運営への市民参加の強化があげられる。
不必要な行政負担を軽減し、新たな公共サービスを展開するキャパシティを確保していくためには、現在の行政の守備範囲を見直し、民間企業や市民参加による運営に委ねていくことが必要である。特に、福祉やまちづくりといった市民生活に密接に関連する分野においては、市民参加システムの穀zが都市行政のみならずわが国全体にとって必要必要不可欠である。しかし、わが国の場合、例えば市民参加制度が設けられている環境アセスメントにおける例を見ても、いくつかの調査結果で、市民サイドに行政との「協働」を可狽ノするだけの専門的な知識の集積が乏しいことが指摘されているなど、すぐさま欧米型の自立的市民を前提とした市民参加システムは考えにくい現状にある。このため、市民のニーズと行政システムとを整合させる第3者機関すなわちいわゆる「第4セクター」(行政(第1セクター)と市民との連合体)の整備が必要であると思われる。
海外では、ミュンヘン・フォーラム(独)やグランド・ワーク(英)などのいわゆるNGOがこの役割を担い有効に機狽オている。わが国ではこれらのNGOは、純民間のボランティア的な団体と理解されているようであるが、ミュンヘン・フォーラムにせよグランド・ワークにせよその設立・運営には行政も強力な支援を与えており、それが、これらの団体が行政へ大きな影響力を持っている背景にもなっている。
これらの方策は、いずれも行政サイドの根本的な意識改革と長期にわたる努力を必要とする。しかし、決して不可狽ネことではない。
都市国「の再穀zには非常に長い時間を要するが、幸い、現在全国の市町村では、今後20年の都市づくりの基本計画である都市計画マスタープランの策定が行われており、同計画による方向づけと誘導容積制度や容積の適正配分制度等の活用によって実現を目指すことが可狽ナあろう。また、第4セクターの組織の設立には、当然資金が必要であるが、長期落Z方式導入等による効率化により確保できるものと思われる。
例えば、平成5年度の法定普通税収入額(市部)は、9兆5235億円であるが、そのうちの0.5%が節約できれば、数人の専属スタッフを持った第4セクターを人口30万人に一つづつ設置することができるという試算も成り立つ。
これらの方策により各地方自治体レベルでの進歩の余力が確保され、わが国全体が多様性と主体性に富んだ新しい進歩の時代を迎えることを望む。
なお、ここに提案した各方策について、次回以降、より具体的な内容や実現方策とともに「余力」の使途についても提案する嵐閧ナある。