Business & Economic Review 2008年06月号
【REPORT】
資源輸出国オーストラリアの光と影
2008年05月25日 調査部 環太平洋戦略研究センター 上席主任研究員 高安健一
要約
- 中国とインドに代表される新興成長国が、アメリカの景気減速の影響を吸収し、世界景気を下支えするとのデカップリング論が注目を集めている。オーストラリアのような資源輸出国にとって、新興成長国を輸出先として確保しいかに自国の経済成長に活かすことができるかが重要な意味をもつ。同国は2002年以降、中国などへの輸出を着実に増やし好況を謳歌してきた。しかしながら、資源価格高騰の恩恵は、経常収支黒字が急増し外貨準備が大幅に積み上がったロシアや湾岸協力会議(GCC)諸国の石油輸出国と比較すると限られている。オーストラリアの場合、資源輸出の増加にもかかわらず経常収支赤字が拡大するなど、国際収支の脆弱性は改善されていない。
- オーストラリアの輸出相手国を2006年度(2006年7月~2007年6月)についてみると、アメリカのシェアは5.8%と低く、その景気減速が国内景気に大きな影響を及ぼすとは考えにくい。他方、中国のシェアは、鉄鉱石の輸出が急増したことなどから、資源ブームが到来する前の2001年度の6.5%から2006年度に13.6%へ倍増した。一方、中国からコンピュータや携帯電話などの輸入が急増しているため、対中貿易赤字は2006年度に▲43億豪ドルとなり、オーストラリアの貿易赤字(▲127億豪ドル)のおよそ3分の1を占めた。中国との貿易関係は、オーストラリアが資源を輸出して工業製品を輸入する垂直分業になっている。
- 資源ブームが長期化するにつれて、インフレ圧力の高まり、家計部門の利払い負担の増加、銀行貸出の急増、国際収支の悪化などの問題が顕在化してきた。昨年来のアメリカ発の国際金融不安は、国内の金融市場において金利上昇要因となるとともに、ポートフォリオ投資およびその他投資の流出を引き起こしている。そして、2007年8月以降、経常収支赤字の拡大とポートフォリオ投資およびその他投資の流出が同時に進むなか、外貨準備はピーク時の2007年7月(689億米ドル)から最新の統計が得られる2008年2月(334億米ドル)の間に半減した。オーストラリアでは、足元の景気は堅調ではあるが、一段の金融引き締め観測などから、消費者信頼感指数が2008年3月に急落し、2002年以降で最低の水準となった。オーストラリア経済に関して、資源ブームの恩恵が注目されてきたが、その弊害についても注意深く見守っていくべきである。