Business & Economic Review 1999年01月号
【MANAGEMENT REVIEW】
アジア総括と展望(98-99)前編-大中華経済圏の動向
1998年12月25日 林志行、平塚英子
要約
中国は21世紀の早い段階での台湾の併合に向け、一国二制度を提唱している。かなり台湾側に譲歩した内容ではあるものの、台湾側の主張は「民主化」であり、両岸関係改善に向けた対話再開では、今後言質を取り付ける激しいやり取りが予想される。
中国当局内では、人民元の切り下げやドルペッグ制の維持を巡り、解釈が二分している。当面の観測指標は経済成長率8%の達成と、達成に向けた指導者層のコメントである。中国首脳は洪水被害等で一時弱気の発言をしていたが、改めて目標達成を目指す強い意志を年末にかけて繰り返し表明している。
華南経済圏の地盤沈下は一方で、中央当局の長年の夢であった「中央対地方」の対立の構図に終止符を打ち、中央統制に向けた規制強化を実施する環境を作り出している。見方によっては、経済回復へのスピードを緩めても、地方の中央への忠誠を取り戻そうとするものであり、99年は「華南」発の経済破綻に留意することが必要となる。
返還後香港でも地盤沈下が激しい。アジア経済危機以降、中央統制が強化されたことから、広東省との連携に向けた自由度は低くなった。香港は自立再生への足掛かりとして、かつての自由貿易港としての役割を再認識しつつ、中国市場進出への独自の戦略を模索することになる。ただし、当初予想されていた上海の金融センターとしての台頭は時期尚早ということで、香港の金融センターとしての役割は不変である。
台湾は、中長期的には中国との関係を一層深めることになるが、過渡期の現在は、混沌としたASEANから引き揚げようとする外資の新たな統括拠点としての強みを発揮することになる。過渡期における外資企業の発想のひとつに、中台両岸関係の進展ならびに「国共合作」への期待がある。この場合、台湾から「大中華経済圏」と「拡大ASEAN」の双方を管理する戦略を採用する。
従来、アジアの時代は「大中華経済圏」と「拡大ASEAN経済圏」に二分され、双方が対峙しながら切磋琢磨することをシナリオとして描いていたが、拡大ASEAN経済圏が過渡期の混乱を経て、「イスラム経済圏」と「新生バーツ経済圏」に二極化することから、「大中華経済圏」の一人勝ちが予想される。
日本は、「大中華経済圏」か「拡大ASEAN経済圏」かの二者択一からの脱却を目指し、東アジアを中心に、第三の経済圏である「海洋都市経済圏」の成立に尽力すべきである。また、二極化する傾向にある「拡大ASEAN経済圏」への継続的な投資により、選択可能な投資先を三分し、自らのポートフォリオのリスク分散を図ることが望まれる。