Business & Economic Review 2000年08月号
【論文】
2000~2001年度経済改訂見通し-IT革命を通じた経済再生への途
2000年07月25日 調査部
要約
わが国経済は99年4月を底に景気回復局面にある。これは、家計・企業両部門におけるIT化の広がりによるほか、財政・金融政策面の景気浮揚効果、好調な海外景気といった「外生的要因」の寄与も無視できない。 一方、ミクロ的にみた景気の実態は「二極化」と表現することができる。
・ 「産業間の二極化」…
IT産業分野における生産・販売活動は急成長を遂げる一方で、非IT分野では低迷を脱し切れていない。
・ 「企業・家計間の二極化」…
設備投資の回復が明確化する一方で、個人消費の回復が遅れている。
ここにきて、これまでの景気回復を支えてきた「外生的要因」に変調の兆し。
・ 公共工事請負金額に息切れの動きがみられるほか、信用保証協会の特別保証枠利用企業の倒産が増加傾向。巨額に上る財政赤字に象徴される副作用が臨界点に達しつつあるなか、財政政策による景気浮揚効果は限界に。
・ アメリカ経済に減速の兆し。もっとも、4~6月期の減速は一時的であり、2000年を通じて堅調に推移する公算大。ただし、夏場以降再び超過熱状態となり、インフレ加速が現実化し、ハードランディングを余儀なくされる可能性を排除できず。
一方、国内民需の動きをみれば、依然として2つの「二極化」の構図が残るものの、IT革命を原動力に経済全体に前向きの動きが徐々に強まりつつある。
・ 企業部門は依然として分野別バラツキが残るものの、総じてみれば収益体質が改善に向かっており、企業活動にダイナミズムが戻りつつある状況。こうしたなか、設備投資についても、IT産業の周辺分野や輸出主導型産業に回復の動きが広がってきている。
・ 企業部門でみられはじめたダイナミズム回復の動きは、IT革命への取り組み姿勢の積極化が牽引。現時点では、デマンド・サイドの効果としてのIT需要の拡大がIT産業の活況をもたらしている一方で、サプライ・サイドの効果としてのIT活用を通じた生産性向上効果は途半ば。もっとも、今年に入って、大企業や既存産業でITを活用した新しい経営戦略の創造の模索が始まるなど、IT革命のうねりは着実に進展。
・ 雇用面でなお厳しさが残存するなか、個人消費には当面脆弱さが残る公算大。もっとも、個人マインドの改善傾向が見込まれるなか、ボーナスも増加傾向に向かうため、個人消費の持ち直し傾向は徐々に明確化する見通し。
今後わが国経済がたどる景気のコースは、「外生的ファクター」として、(1)今後どのような政策が打たれるのか、(2)アメリカ景気のコースをどう考えるか、一方「内生的ファクター」としては、(1)IT革命がどの程度加速するか、(2)家計部門の回復力がどこまで強まるか、がぞれそれ焦点となり、これら要因をどう考えるかによって、以下の3つのシナリオを描くことができる。
・ 回復持続シナリオ…
アメリカ経済が引き続き堅調に推移するなか、IT革命の着実な進展を原動力に、企業部門主導の景気回復が持続する。一方、雇用調整圧力が残るため、家計部門の回復力は緩やかにとどまる。2000年度の実質経済成長率は1.8%、2001年度は2.1%と成長力を高める。
・ 本格回復シナリオ…
政策スタンスに大胆な転換がなされる一方で、アメリカ経済もソフトランディングに成功する。制度面での障害が除去される結果、IT革命が加速し、所得・雇用環境も改善傾向が明確化し、家計部門の回復力も強まる。2000年度の実質経済成長率は2.1%、2001年度は3.1%と本格的な回復軌道に復帰する。
・ 調整急進展シナリオ…
アメリカ景気のハードランディング、財政破綻がもたらす悪い金利上昇という「外的ショック」が、成熟型産業分野での調整圧力を一気に顕在化させる。2000年度の実質経済成長率は1.5%と1%台を確保するものの、2001年度は0.4%と再びゼロ成長となる。
今後のあるべき政策のあり方については、これまでの「景気回復のためには何でもあり」のスタンスに終止符を打ち、持続的景気回復に向けて「経済全体の体質改善」を促すスタンスに抜本的転換を図ることが不可欠。
その政策が目指すべきはIT革命を経済全体で推進することであり、成熟型産業分野の効率化と新規産業分野の創造に向けての構造転換を加速させること。その推進主体はあくまで民間であるが、政府としては、以下の3ステップにより、構造転換の阻害要因を取り除くとともにそれを円滑化するための基盤整備を行う必要。
・ 第1ステップ:「旧来型産業保護政策の新規実行の停止」
・ 第2ステップ:「IT革命=構造転換促進トータル・プランの実施」…
IT基盤整備、事業創造基盤整備、雇用・能力開発システムの確立を柱として、規制改革・税制改革・財政改革を推進。ここでいうIT基盤整備については、制度整備・税制・基礎研究といった環境整備に徹するべきであり、従来型公共投資から発想を変えずITの冠を被せただけの「ハコモノ」建設は止めるべき。
・ 第3ステップ:「活力ある少子・高齢化社会への準備」…
年金・医療・介護改革、科学技術力強化、財政再建、少子化抑制策・育児基盤整備等について、開かれた議論を本格化させ、2001年度中に統一的なビジョンを集約し、2002年度からの実施を目指す。