Business & Economic Review 2000年05月号
【論文】
ネット革命時代のアクティブシニア向けサービスのあり方について-「首都圏50歳からのアクティブライフ」調査報告
2000年04月25日 創発戦略センター 村田裕之、創発戦略センター 嵯峨生馬
要約
インターネット革命が爆発的な勢いで世界的に広がりつつある。このネット革命は地理的な広がりのみならず、世代的な広がりも見せている。ネット先進国アメリカではネット人口の2割以上が既にシニア(ここでは50歳以上の年長者と定義)である。
アメリカのシニア市場では、このようなネット革命の浸透により、情報主権を握った賢い顧客「スマートシニア(情報技術を活用し、自身で情報収集し、積極的に消費行動するシニア)」が続々と増えている。そして、このスマートシニアの増加により、全てのビジネスモデルが顧客中心に組み替えられつつある。その結果、顧客の購買代理人である「ニューミドルマン(新しい中間業者)」がシニア市場でも生まれている。
これに対し、わが国のシニア市場はまだ大きく遅れている。アメリカに比較してネットを活用するシニアの割合が少なく、これに対応してネットを活用したシニア向けのサービスも少ないのが現状である。この一方でわが国でもネットビジネスに関する動きが本格化しており、近い将来、シニア市場にもネット革命の波が押し寄せることが予想される。
しかしながら、現状ではわが国シニアのネット利用に関する調査結果が少なく、その消費動向に関する知識が不足しており、ネット革命によりシニア市場がどのように変わっていくのかのシナリオが描きにくい。
このような背景のもとに、日本総合研究所では、首都圏のアクティブシニア(まだ介護が不要で元気な50歳以上の年長者)を対象に、現状における「パソコン・インターネット利用の実態」と「7分野の商品・サービス利用の実態」に関する調査を実施した。この結果、シニアのパソコン・インターネット利用の実態につき、次の知見を得た。
・ 現時点におけるシニアのパソコン利用率は8.6%である。
・ ただし、パソコン未利用者のうち、半年以内に利用予定の人の割合は8.4%、将来的に利用したいと考えている人の割合が44.6%であり、未利用者の半数以上は高い利用意向をもっている。
・ 一方、現時点におけるシニアのインターネット利用率は2.9%である。
・ ただし、インターネット未利用者のうち、半年以内に利用予定の人の割合は5.5%、将来的に利用したいと考えている人の割合が45.4%であり、インターネットに対しても未利用者の半数以上は高い利用意向をもっている。
・ パソコン・インターネット共に未利用者が利用しない主な理由は、(1)使い方が難しい、(2)使う必要性を感じない(または手に入れたい情報がない)、である。
・ インターネットに関しては未利用者が利用しない理由として、「接続料・電話代が高い」を上位に挙げている。
・ 「(1)使い方が難しい」の主な理由は次のとおりである。
1.パソコンが使いにくい
2.インターネットの操作・設定が難しい
3.使い方がよくわからない
4.情報技術に対する心理的抵抗がある
・ 「(2)使う必要性を感じない(または手に入れたい情報がない)」の主な理由は次のとおりである。
1.インターネットを使って情報をやり取りする相手がいない
2.目的の情報がインターネットで入手可能にもかかわらず、情報収集の方法を知らない
3.目的の情報がインターネットでは提供されていない
情報入手をしようと思わない
以上に基づき、シニアのパソコン・インターネット利用の促進策をまとめた。その骨子は次の六点である。
・ 他のメディアではなく、インターネットであるからこそ高付加価値となるナレッジサービスを提供する。
・ インターネットアクセスのためのサポートサービスを充実する。
・ 商品分野毎に主要な情報源となっているメディアとの連動により、インターネットによるナレッジサービスのメリットをアピールする。
・ オフラインおよびオンラインでの同世代コミュニティ作りを支援する。
・ 端末操作を簡便にする。
・ 接続料金や電話料金を低減する。
また、この骨子に即して具体的な施策の方向性を今回の調査結果およびアメリカの先進事例を踏まえて提示した。これらの施策を実現できれば、現時点のパソコン・インターネット未利用者のかなりの割合が新たに利用者となる可能性が大きい。
これまでの商品・サービスの多くは、若年層をターゲットとしたものであった。まず、若年層向けに商品開発をし、若年層市場で評価された後、それを他の世代にも売っていこうという発想であった。この理由は、これまで50歳以上のシニア世代が市場ターゲットとしてあまり重点を置かれておらず、多くの企業がシニア利用者の視点による商品・サービス開発にあまり注力してこなかったからである。今回の調査結果は、現状のパソコン・インターネットを活用するサービスに、シニア利用者の視点がいかに欠如しているかを示したものである。
ネット革命の本質は、情報バリアがなくなることで情報主権が企業から顧客に移ることにある。そして、これにより、あらゆるビジネスモデルが顧客中心に組み換えられることにある。
既にわが国でも、シニア市場以外では、この顧客中心市場が数多く出現しつつあり、近い将来、シニア市場も同様の動きとなることが予想される。顧客の購買代理人である「ニューミドルマン」が、わが国のシニア市場でもまもなく出現する。
この一方で、単なる価格の安さや種類の多さだけでは商品を評価しない目の肥えたシニアこそ、親身になって自分の購買支援をしてくれる「ニューミドルマン」を強く求めているのである。したがって、今後大きな成長が見込まれるアクティブシニア市場で勝ち組になるためには、この「ニューミドルマン」としてのビジネスモデルを構築できることが必須と言えよう。