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Business & Economic Review 2004年02月号

【FORECAST】
新年世界経済の展望-波乱の種を抱えながらの景気回復

2004年01月25日 調査部 経済研究センター


要約
  1. 2003年の世界経済は、春先のイラク戦争、年央にかけてのSARS禍、という大きな障害を乗り越え、年後半には回復傾向が明確化した。とりわけアメリカでは、それら不透明要因の剥落によるマインド好転とともに、財政・金融面からの景気てこ入れ効果が夏場に集中的に発現したことによって、景気拡大ペースが大きく加速し、それに牽引されて、日本を含む東アジア諸国やユーロ圏経済も、年後半にかけて回復傾向が強まる展開となった。

  2. そうした世界景気好転の一方で、国際間の摩擦や、従来の景気回復期とは異なる国内問題も新たに浮き彫りとなった。そのうち、2004 年の世界経済をみるうえでカギとなる下記三つのポイントについて検証してみた。

    (イ)通貨・通商摩擦の激化
    2003年は、米中間を中心に通貨調整や貿易摩擦の問題が表面化した年であった。アメリカの人民元切り上げ要求に象徴される通貨・通商面での米中対立の構図は、それぞれの内政問題も絡んで容易には着地点を見いだし難い。もっとも、強硬姿勢を強めているアメリカとしても、中国へ進出したアメリカ企業が受けている恩恵や、経常赤字ファイナンスにおけるアジアマネーへの依存度上昇、等を考慮すれば、いたずらに対立を先鋭化させることは得策ではない。現実的な対応として、大統領選挙を控える2004年は経済・市場を大きく揺るがすような事態を極力回避するよう、為替を含むマクロ政策・通商政策が運営される可能性が大きいと判断される。ただし、それはアメリカ内需の調整やドル一段安のリスクの先送りという面が強い。

    (ロ)「雇用なき回復」をどうみるか
    「ジョブロス・リカバリー(雇用を失う景気回復)」と呼ばれたアメリカの雇用情勢は、高率成長を達成した2003年夏場以降ようやく持ち直しに転じたものの、なお改善の足取りは重い。この背景には、アメリカ企業がグローバルな企業間競争の激化による不断の合理化・省力化要請や雇用コストの高止まりに直面するもと、IT機器等を活用した労働代替、海外労働力への業務外注化を積極的に進めている、という事情がある。その意味で、このところの雇用低迷は構造的な色彩が強い。こうしたなか、「国境を容易に越えられず、かつ労働・知識集約性が高い」教育・医療産業での雇用増加が目を引くが、全体の牽引役としては力不足である。総じてみれば、2004 年についても基本的に低調な雇用情勢が続くと予想される。

    (ハ)主要国の金融政策の行方
    世界的な景気回復傾向が明確化するなか、2003年11月にはイングランド銀行が約4年ぶりの利上げに踏み切り、世界的な金融緩和局面の終焉が意識され始めている。もっとも、雇用と物価に焦点を当てて経済情勢の良否をみた「修正悲惨指数」を作成してみると、イギリスの利上げの背景には極めて良好な経済環境の持続があったことが確認される。一方、他の主要国・地域は依然「望ましい経済状況」にはなく、とりわけアメリカでは足元でも「悲惨度が大きい」との結果が得られた。経済成長率の加速を受けて、Fedが「超低金利政策の修正」に動く可能性までは否定し得ないものの、足元の雇用・物価がそれぞれ政策当局が目指すべき状況から大きく乖離しているもと、早急に本格的な金融引き締めが実施される可能性は、極めて低いと判断される。

  3. 以上の分析を踏まえたうえで、2004 年の世界経済を展望すると、年前半は総じて堅調な景気展開が見込まれるものの、年後半はアメリカ経済の牽引力低下により、景気拡大ペースは鈍化に向かうと予想される。

    (イ)アメリカ…年前半は、春先の税還付期に改めて減税効果が強まることから、堅調な景気展開が見込まれるものの、年後半は減税効果が剥落するもとで、引き続き雇用改善が緩慢なペースにとどまることから、減速感が強まる見通しである。
    (ロ)欧州…ユーロ圏は、年前半にかけて外需主導により景気の持ち直し傾向が明確化するものの、内需の速やかな盛り上がりは期待し難いなか、年後半には海外景気減速や引き締め気味の財政運営を背景にスローダウンへ向かう。イギリスは、住宅ブームの余熱や、柔軟な労働市場に支えられた雇用好調、等で相対的に堅調な景気展開が見込まれるものの、海外景気の減速の影響は避け難く、年後半には景気の拡大ペースがやや鈍化する。
    (ハ)アジア…a.アメリカをはじめとする世界経済の回復、b.IT需要の回復、c.中国の成長持続、d.低金利を背景にした内需の回復などにより、2003年を上回る成長率が予想される。ただし、総じて失業率が高止まり、これが民間消費の伸びを抑制すること、また設備投資が本格回復に至らないことなどから、中国を除くと、4~5%のモデレートな成長ペースとなる見通しである。

    世界主要国・地域の実質経済成長率見通し

    (資料)各国統計資料をもとに日本総合研究所作成



  4. なお、上記のシナリオに対するリスク要因として、a.アメリカおよび同盟国を標的としたテロ活動の頻発・拡散などの地政学的リスク、b.保護主義的な動きの強まり、c.金融不祥事等をきっかけにアメリカ金融資本市場に対する信認が動揺するリスク等があり、これらに対する注意が必要である。
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