Business & Economic Review 2007年12月号
【POLICY PROPOSALS】
就業形態の多様化に対応した雇用保険制度の改革
2007年11月25日 調査部 ビジネス戦略研究センター 主席研究員 持永哲志
要約
- 最近の景気回復局面においても、わが国の非正規雇用者の比率は一貫して拡大している。さらに、「自営的雇用」、「雇用的自営」といった、自営業者と雇用者の中間的領域の就業形態も増加しており、就業形態が多様化、液状化している。これは、先進各国共通の動きであり、その背景には、a.経済のグローバル化が進展し、企業間競争の激化による労働コスト削減圧力が高まってきていること、b.サービス産業の進展に伴って消費者ニーズにきめ細かく対応する必要のある職種が拡大し、時間的にも場所的にも多様な就業形態が求められるようになっていること、c.女性の職場進出の拡大が仕事と家庭の両立ができる非正規雇用の需要を生み出していったこと等があげられる。
- わが国労働市場においては、諸外国に比し、正規雇用者の労働移動率が低く、非正規との賃金格差が大きいという特徴がある。今後、流動性が低く、賃金水準は高く、能力開発、福利厚生も充実した正規労働市場と、流動性が高く、賃金水準は低く、能力開発、福利厚生も不十分な非正規労働市場への二極化は一段と進む懸念がある。正規・非正規の二極化を解消し、流動的で多極的な労働市場としていくことが必要である。
- その際、労働政策としては、就業形態の多様化に対応したものとしていく必要があるが、わが国
労働政策は、多様な就業者全体を十分的確に捉えているとは言い難く、なかでも雇用保険制度が最も対応すべき課題が多い。すなわち、わが国の雇用保険制度においては、大企業の正規雇用者を主な対象と捉え、その上で、非正規雇用等の周辺部の労働者に適用を拡大するという経緯をたどってきており、非正規雇用に対するセーフティーネットとしては不十分なものである。現に、就業形態の多様化の進展とともに、雇用者全体に占める被保険者の捕捉率が70%程度に低下するとともに、失業者に占める失業保険受給者の捕捉率も20%程度と大きく低下し、諸外国に比べ、極めて低い水準となっている。加えて、わが国の積極的雇用政策は雇用保険制度を中核として展開されてきているが、非被保険者は政策の対象とならないため、雇用保険の捕捉率が低下するに伴って、政策の対象が縮小するという事態が生じている。また、機能面においても、事実上、積極的雇用政策の中核としての位置付けであるにもかかわらず、失業と関連する事業に限定されており、労働政策としてみると問題が多い。 - このため、就業形態の多様化に対応した有効な労働政策を行っていくためには、雇用保険制度について、a.適用対象面においては、現在対象としていない短時間労働者、役員、公務員、自営業者までを広範に含めるとともに、b.機能面においては、能力開発、就業環境支援等失業との直接の関連のない事業を幅広く含めた広範な機能を付与する「就業者共助制度」を創設し、労働政策において、労働者の一部しか対象としていない雇用政策から労働者(=就業者)全体を対象とした新たな就業者政策に転換する第一歩とすべきである。就業者共助制度の財源負担の在り方については、a.公務員の事業主負担については、その財源として現在雇用保険特別会計に繰り入れられている国庫負担分を財源として活用するとともに、b.自営業者の保険料率については、失業という事故が少ないことに着目して雇用者において労使が負担している料率よりも低い負担を求めることを考えていくべきである。このように、対象を広げることにより、保険料収入は増える一方、支出の増加は抑えられることから、保険料率を引き下げることも可能となる。
レクチャー資料(
