アジア・マンスリー 2009年2月号
【トピックス】
改善した国際収支と反発するウォン
2009年02月01日 向山英彦
2008年9月から11月にかけてウォン/ドルレートが急落したが、国際収支の改善とともに、政府がドル供給策を講じたこともあり、11月下旬以降反発に転じている。
■国際収支の悪化とウォン急落
韓国では、2004年秋口以降2007年半ばまで「経常収支と資本収支がともに黒字」の状態が続き、ウォン高が進展した。2002年から2004年半ばまで、1ドル=1,100ウォン台で推移したウォン/ドルレートは、2007年7月には910ウォン台(ウォン/円レートは100円=750ウォン台)まで上昇した。
それがウォン安基調へ転じたのは2007年秋口以降である。その背景には、資本収支が同年7~9月期に赤字に転じたことと、2008年に入り後、原油価格高騰の影響により経常収支が赤字になったことがある。これに伴い、ウォン安圧力が強く働き始めた。さらに9月に米国でリーマンブラザーズが経営破綻したのを契機に海外投資家による資金回収が進んだため、ウォンは9月末の1ドル=1,187ウォンから10月10日には1,420ウォンへ急落した。
海外メディアによる「韓国経済危機説」により市場の不安心理が強まったこと、国際金融市場でのドル資金の調達に支障をきたす事態が想定されたため、輸出企業が輸入原材料の支払いに必要なドル資金を手元に確保する傾向を強めたこともウォンの下落を加速させたといえる。
ウォンの急落を受けて、10月19日、政府は金融安定化策(後述)を発表した。これを契機に一時1,200ウォン台まで戻ったが、しばらくすると再び1,400ウォン台へ下落するなど乱高下した。また、10月30日に韓国銀行と米国連邦準備制度理事会との間で通貨スワップ協定が締結された直後に急反発したものの、その後再びウォン安基調となり、11月21日にはついに1,500ウォン台まで下落した。これは通貨危機直後(98年2月に1ドル=1,640ウォン)に迫る水準である。
■反発に転じるウォン
ウォン急落は国際金融市場の混乱により市場の不安心理が増幅された面があり、基本的には原油価格高騰に起因する経常収支の悪化と資本収支の赤字拡大によるものであるため、国際収支の改善に伴い、ウォンが反発していく可能性は高いと考えられる。以下に述べるように、その条件が整い始めた。
第1は、経常収支が黒字に転じたことである。2007年12月から赤字が続いていた(2008年6月を除き)経常収支が貿易収支の改善により、10月49.1億ドル、11月は20.6億ドルの黒字となった。貿易収支の改善は、原油価格の急落により財収支が黒字に転じたこと、サービス収支の赤字幅が著しく縮小したことによる。6月から8月にかけて毎月20億ドル以上を記録していたサービス収支の赤字幅は、10月5,480万ドル、11月1億3,000万ドルに縮小した。これには、7月に14.9億ドルの赤字を記録した旅行収支が、10月に5億ドル、11月に4.2億ドルの黒字になったことが寄与している。
第2は、資本収支の赤字が縮小しつつあることである。資本収支の赤字は2008年10月の248億ドルから11月に半減し、直接投資の赤字も縮小している。これは、a.外国人投資家による資金回収が一段落した、b.韓国への証券投資が徐々に回復している、c.韓国企業による対外直接投資が減少傾向にあるためである。
第3は、ドル資金供給策が講じられたことである。外貨調達が厳しくなった銀行が輸出企業の貿易手形買い取りに消極的となったことを受けて、10月、政府は各銀行が輸出中小企業の貿易手形を割引すれば、輸出入銀行がこれを再割引する方式で50億ドルの資金を供給することを決定した。10月19日には、国内銀行の外貨借入取引に総額1,000億ドルの政府保証(2009年6月末まで対象、保証期間3年)、外貨準備を使い市場へ300億ドルを供給するなどのドル資金供給策、中小企業の資金繰り支援などを柱とする金融安定化策を発表した。市場へのドル供給策として、競争入札方式のスワップ取引制度が導入された。
しかし、一連の措置は市場に外貨準備高の減少につながると受け取られ、「ウォン売り」の材料となったため、政府は新たな対応に迫られた。それが通貨スワップ協定の拡充である。まず、10月30日、米国との間で新たに通貨スワップ(300億ドル規模)協定が締結された。これをもとに、12月2日、9日、22日と、3回にわたって計104億ドルが調達された。
つぎに実施されたのが、日本、中国との既存通貨スワップ枠の拡大である。日本政府は韓国政府からの要請もあり、これまでの130億ドルの通貨スワップ枠を広げる方針を決めた。2008年12月13日に開催された第1回日中韓首脳会談において、円とウォンとの融通枠を現行の30億ドルから200億ドルに拡大することが合意された。韓国側は円を市場でドルに交換し、それをもとにウォンを支えることになる。2006年2月に締結された「第2次二国間通貨スワップ取極」(日本が100億ドル、韓国は50億ドルをコミットする)と合計すると、300億ドルとなる。
中国との間でも通貨スワップ協定(40億ドル相当)が締結されていたが、上記の首脳会談で1,800億人民元と38兆ウォンを融通するという新通貨スワップ協定の締結が合意された。これにより、中国も韓国に対して300億ドル相当を融通することになった。
韓国の外貨準備は2007年末から2008年11月の間に617億ドル減少したが、日本と中国合わせて600億ドル相当の通貨スワップ枠が設けられたことにより、市場の不安心理が和らぐことが期待される。
こうした国際収支の改善と政府によるドル資金供給策の効果もあり、ウォン/ドルレート11月21日の1,509ウォンをボトムに反発し、12月10日には1,300ウォン台へ回復した。今後も一時的に不安定な展開となる可能性があるものの、ウォン安に歯止めがかかったといえよう。また、外貨準備高はドル安が進んだこともあり、11月の2,005.1億ドルから12月に2,012.2億ドルへ、9カ月振りに増加した。