アジア・マンスリー 2011年3月号
【トピックス】
新興国で関心高まる韓国の経済発展経験
2011年03月01日 向山英彦
近年、新興国の間で韓国の経済発展の経験を学ぶ動きが拡大している。韓国政府も自国の発展経験にもとづく知識、ノウハウを積極的に伝えており、このことがビジネスの拡大にもつながっている。
■関心高まる韓国の経済発展経験
近年、新興国の間で韓国の経済発展の経験を学ぼうとする機運が高まっている。その背景には、第二次世界大戦後に世界の最貧国の一つであった韓国が短期間に著しい経済発展を遂げたこと、途上国が現在直面している問題の解決に、韓国の経験を活用できることがある。新興国側の関心は経済開発計画から輸出産業の振興、農村開発、新都市開発など広範囲に及んでいる。
韓国政府も2004年から「経済発展共有事業」(KSP:Knowledge Sharing Program)を開始し、自国の発展経験にもとづく知識、ノウハウを積極的に伝えている。基本的には新興国の要請にもとづき、経済発展に必要な解決策をコンサルティングするものである。問題解決に向けた知識の共有化は、新興国の制度設計能力の向上と人材育成に貢献する。こうしたコンサルティングが土台となって、ウズベキスタンではナボイ自由工業経済区の設立、ベトナムでは開発銀行の設立につながっている。
また、2010年9月にソウルで開催された韓国・アフリカ経済協力会議において、韓国政府はアフリカの実情に合う「経済発展共有事業」を2012年までに12カ国以上に広げること、インフラ事業支援のために輸出信用と対外経済協力基金を組み合わせて供与すること、各国の農業・農村開発マスタープランの作成を支援することなどを表明した。同時に、アフリカに進出する韓国企業のリスクを低下させる目的で、輸出金融及び輸出保険を拡大することを打ち出した。
■韓国の新都市開発
経済発展の経験とともに新興国が関心を寄せているものに、韓国の新都市開発と低所得層向けの住宅政策がある。
1960~80年代の高度成長期に、韓国では都市化が急速に進んだ。全人口に占める都市人口の割合は60年の27.7%から85年に64.9%へ上昇し日本を上回った(右上図)。都市化が急速に進むなかで、ソウル特別市ならびにソウル首都圏(ソウル特別市、仁川広域市、京畿道)への人口集中が進んだ(右下図)
高い出生率(70年の合計特殊出生率は4.53人)に加えて、中央志向の強さを背景に、雇用・教育機会を求めて地方から人口が流入した結果、70年代初期のソウルでは住宅不足が深刻化した。線路の土手の斜面や山腹の傾斜地、河川流域にスラムができた。
政府は不法占拠者をソウル周辺部に移住させる一方、中心部では再開発を進めて住宅供給を増やした。72年に「住宅建設促進法」を制定し、10年間に250万戸の住宅を建設する計画を発表した。一般向けの賃貸(5年後分譲)住宅を供給する事業者に対する低利融資と税制支援の措置が導入された。また低所得層向け住宅供給を促進するため、81年に国民住宅基金が設けられた。低所得層向けの小型住宅(永久賃貸)を建設する事業者(住宅公社以外の民間建設事業者にも)への融資を行うほか、低所得層向けの低利融資も行った。
80年代に入ると、大手建設業者によって大規模アパートが相次いで建設され、ソウルの景観は変貌した。しかし、人口増加が続いたため、住宅不足の解消はさほど進まなかった。この状況を改善するために打ち出されたのが88年に発表された「住宅200万戸建設計画」であり、その中心が新都市の建設である。新都市とは「330ha以上の規模で行われる開発事業で、自立性、快適性、利便性、安全性などを確保するために、政策的に推進して建設される計画都市」のことをいう。第一期の5つの新都市はすべて京畿道内の盆塘(城南市)、一山(高陽市)、坪村(安養市)、中洞(富川市)、山本(軍浦市)に建設された。いずれもソウルの中心部から半径20~25kmに位置する。
新都市の建設にみられた特徴としては次の4点がある。①民間資本の積極的活用である。開発用地の買収は当時の韓国土地開発公社(現在の韓国土地住宅公社)が行う一方、住宅の建設と分譲は主として民間企業が担った。また「土地先分譲方式」をとることにより、同公社は上水道、道路などのインフラ整備に必要な資金を民間から調達した。②土地の買収・収用の迅速な実施である。「宅地開発促進法」の制定により同公社に土地の強制収用が行える権限が付与された。③中所得層向けとともに低所得層向けの住宅建設である。低所得層向けのアパートは基本的に韓国住宅公社(現在の韓国土地住宅公社)と地方自治体によって建設され、その資金は韓国住宅基金により供給された。④公共事業による鉄道や高速道路の整備である。ソウル中心部につながる鉄道や高速道路が公共事業として実施された。
住宅金融についてみると、90年代半ばまで政府系銀行の韓国住宅銀行(97年に民営化、2001年に国民銀行と合併)と国民住宅基金が住宅融資の80%以上のシェアを占めた。韓国住宅銀行は一般向けのモーゲージローン、国民住宅基金は低所得層を対象にしたチョンセ保証金(購入価格の70%程度の保証金を支払って借りる制度、月々の支払いはない)融資を行っている。また、社会保障制度として、国民基礎生活保法にもとづく住居費補助がある。
このほか、ソウル特別市は独自に、低価格の住宅供給策と低所得層を対象とした住宅バウチャー制度を実施している。
■拡大するビジネスチャンス
新興国の都市開発に関与することは建設だけではなく、高度な環境技術や都市マネジメント技術の受注につながる。すでにアルジェリアでは新都市建設の一部を韓国企業が受注している。事業は韓国土地住宅公社が主管し、国内の建設業者5社が共同で施工する。住宅のほか公園、学校、病院、文化・レジャー施設なども建設する計画であり、新都市周辺の鉄道、高速道路、上下水道などのインフラはアルジェリア政府が整備する。また、急速な都市化が進み住宅不足が深刻になっているベトナムでは、研修生を韓国に派遣して、同国の住宅政策を学んでいる。
これ以外にも、韓国は近年、新興国の経済発展に必要な制度設計に積極的に関わっている。ラオスとカンボジアでは、韓国政府支援の下で証券取引所が設立されている。ラオスの場合、証券取引所は同国の中央銀行と韓国取引所による共同運営で、証券市場の制度設計、売買システムの整備、人材育成などを韓国が担っている。資本市場の整備により経済が一段と発展すれば、韓国企業のビジネスチャンスの拡大にもつながる。
韓国企業のグローバル展開とともに、韓国政府の新興国への積極的な関与に注目したい。