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アジア・マンスリー 2010年3月号

【トピックス】
変わる韓国の輸出相手先と拡大するFTA網

2010年03月01日 向山英彦


近年、韓国の輸出では新興国の依存度が上昇している。新興国の成長加速に加えて、韓国企業の積極的な市場開拓がその要因である。韓国政府はFTA網の拡大により、企業のグローバル展開を支援している。

■新興国への依存度が高まる輸出
韓国の地域別輸出構成比をみると、北米と欧州(以下、欧米)のシェアが趨勢的に低下している。これには、先進国との通商摩擦や80年代後半に生じたウォンの切り上げ、90年代の欧米における地域経済統合の進展(北米自由貿易協定とEUの成立)などを背景に、韓国企業が欧米での現地生産とアジアへの生産シフトを開始したことが影響している。他方、アジア(日本+中国+その他アジア)のシェアは、日本が低下し中国が上昇するという変化を伴いつつ、上昇してきた。生産財に加えて、最近では現地市場向けの消費財が増加している。
アジア通貨危機の影響により、欧米のシェアは97年、98年に上昇したものの、99年以降再び低下した。とくに2008年9月の「リーマンショック」を契機に景気が著しく悪化した結果、2009年は26.7%と大きく落ち込んだ。生産拠点をシフトした国からの輸出に切り替わった点に留意する必要があるが、90年代初頭の50%前後から半分程度にまで低下したことになる。
最近の傾向としてはアジアのシェアはほとんど変化していない(2003年51.2%、2009年52.5%)のに対して、アジア以外の新興国のシェアが上昇(2003年13.3%、2009年20.8%)している。実際、中東、中南米、オセアニア向け輸出の伸び率がアジアを上回る年が多くなっている。この要因として、資源国を中心とした成長の加速と韓国企業による積極的な新興市場の開拓が指摘できる。政府もFTA(自由貿易協定)網を拡大させることを通じて、こうした企業のグローバル展開を後押ししている。

■拡大する韓国のFTA網
韓国は2000年代初めまでFTAに対する取り組みの点で日本よりも後れていたが、近年、その取り組みを積極化している。国内の市場規模が小さく輸出への依存度が高い同国にとって、他国に先行してFTA網を築くことにより、①通商面での優位性確保、②企業のグローバル展開の後押し、③これらを通じた国際物流や金融機能の強化などが期待できるからである。
2006年までにチリ、シンガポール、EFTA(欧州自由貿易連合)との間でFTAを発効させた後、2007年6月1日ASEANとの間で商品貿易協定発効、同30日米国と署名、2009年5月ASEANとサービス貿易協定発効、7月にEUとの交渉妥結、8月にインドと署名(2010年1月発効)など、FTA締結の動きを加速している。
近年の取り組みで特徴的なことの一つは、市場規模の大きい国・地域を優先(日本はアジアを優先)していることである。2010年にはEUとのFTAの発効が見込まれるほか、中国との間で交渉が開始される可能性がある。もう一つは、韓国側の関心品目である自動車など工業製品分野で成果を挙げるために、相手国の要求を柔軟に受け入れてきたことである。例えば、チリとの間ではトマト、キュウリ、豚肉などを10年以内に、米国との間では牛肉を15年以内に関税を撤廃すること、また争点であったスクリーン・クォータ(国内の映画館において国内で製作された映画の一定基準以上の上映を義務付ける制度)を縮小することで合意した。
インドとのFTAでは、インドは輸入額の75%(韓国は85%)を占める品目で8年以内に関税を撤廃する。自動車部品に対する関税率(12.5%)は8年以内に1~5%に引き下げられるため、現地で生産する現代・起亜グループはコスト面で優位に立てる。
また、EUとのFTA最終合意案では、EUは5年以内、韓国は7年以内に工業製品の関税を撤廃する。韓国は自動車や家電など、EUは化粧品や化学製品、ワインを含む農産物の輸出拡大を期待している。争点の一つであった豚肉に関しては、対チリ同様に10年以内の撤廃で決着した。EUとのFTAが発効すれば、日本企業が競争上不利な立場に置かれることは間違いない。最大の影響を受けると予想されるのが自動車業界である。EUは乗用車に10%、商用車に22%の関税を課しており、自動車部品は発効と同時に、中大型乗用車は3年以内に、小型自動車は5年以内に撤廃する。韓国市場でも日本車は影響を受ける。近年拡大する輸入車市場(主に高級車)において日本車のシェアは上昇してきたが、FTAの発効により欧州車の価格が下落すれば、シェア低下は免れないであろう。

■問われるわが国政府の対応
韓国が近年相次いでFTA網を拡大させるなかで、日本との交渉は暗礁に乗り上げたままである。両国は2003年12月から経済連携協定の政府間交渉を開始したが、農水産物市場の開放をめぐる意見対立など(他に貿易不均衡、非関税障壁、産業協力などでの認識の相違)を契機に、2004年11月以降、交渉が中断している(2008年から再開に向けての協議は実施)。
韓国にとって日本と交渉を進めるインセンティブは低下しているため、交渉再開には日本政府がこれまで以上の譲許案を示す必要がある。今後、豪州などの農業大国と交渉を進める上でも、農業政策とFTA推進をどのように調和させていくかという「詰めの作業」が欠かせない。
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