【研究員エッセイ 「農を見る!」】
食糧危機を契機とした農業ビジネスモデル
2008年04月01日 田嶋亨基
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現在、世界的に目まぐるしい食料価格の高騰に見舞われています。サブプライムローン問題やリーマンショックを契機とした、農業分野への投機的資金の流入も原因の一つではありますが、それ以上に中国やインドの胃の腑の拡大と食生活の変化、またトウモロコシなどのバイオエネルギー利用への転換が、穀物を中心とした食糧価格の高騰を引き起こしています。 こうした環境の下、国内外の穀物メジャーや商社は新たな食料生産基地として、中南米や中央アジアで農地の争奪戦を展開しています。しかしこうした近視眼的な食糧確保に向けた対応策は、一層の価格高騰と水や森林、農地などにおける環境問題を助長することが大いに予想されます。 日本総研の農業チームでは、こうした海外依存型の食糧需給構造に代わり、環境負荷のないかつ持続可能な農業生産システムを九州、四国、北陸地方の自治体等と協働で構築する取組を行っています。家畜排泄物や食品廃棄物をメタン発酵処理し、生成物であるバイオガスのハウス栽培における熱源利用や、堆肥・液肥の農地還元、さらに還元された農地での飼料作物の生産により、海外資源に依存しない地域内資源循環型の農業生産システムの構築を進めています。 また、このような循環型農業による農産物は、有機農産物や特別栽培農産物として、消費者に付加価値商品として流通販売することができます。しかし現況の卸売市場を通すと商品の差別性が図られません。だからといって、小口のダイレクト流通では定期・定量・定価での安定的な食料需給構造を実現することは困難です。この問題を解決するものとして、環境循環型農業のプロ農家をネットワーク化し、差別性のある農産物を定期定量で供給する新しい流通販売システムの構築が考えられます。 このような生産システムと流通販売システムを車の両輪とした新たな農業ビジネスモデルを構築することで、世界の水資源や食料を収奪する現在の需給構造から脱却し、地域内資源を上手に利活用する持続可能な食糧需給構造が実現できると考えます。当社農業チームでは、こうしたビジネスモデルを実現するため、現在コンソーシアム設立の準備を行っています。 また、資源循環型の農業ビジネスモデルを構築するにあたっては、バイオマスを中心とした技術導入や施設整備も必要であり、このインフラ導入にかかる資金確保も重要となってきます。この資金確保方法の一つのヒントとして、サンフランシスコにKivaという主に途上国の農業開発を支援する小口融資のマイクロファイナンスがあります。この特徴は、途上国で農場設立を目指す人の顔写真や、開設農場、調達資金に関する情報を一目で見ることができることです。貸し手はこうした情報を下に、自由に借り手を選択して小口で融資額を設定することができますが、ファイナンス分野でもこうした顔の見える関係が大変好評とのことです。 農業分野での顔が見える関係と言えば、現在はネットや店頭での農産物売買を通したものが主ですが、今後は、環境保全や持続可能な農業生産を実現するプロ農家とそれに共感する消費者や企業による、顔が見える投融資関係の構築も考えられるのではないでしょうか。現在設立中のコンソーシアムでも、前述の車の両輪を下支えする要素として、検討していきたいと思います。 | |
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