Business & Economic Review 2009年10月号
【STUDIES】
マネジメント・アプローチがもたらす内部経営管理情報の「可視化」-セグメント開示情報に基づくケース・スタディーを通じて
2009年09月25日 新美一正
要約
- 会計基準の国際的共通化が急ピッチで進むなか、わが国においては、来る2011年3月期以降、いわゆるマネジメント・アプローチに依拠したセグメント情報開示が義務付けられることになった。
- マネジメント・アプローチの導入により、セグメント情報は、外部の投資家に対してこれまで未知の存在だった企業内部の経営管理情報へのアクセス手段を提供することになる。これに伴う「内部の経営管理情報の可視化」の進展は、経営者と外部の会計情報利用者との情報格差を縮小させ、そのことは経営者の意思決定プロセスにも多大な変化をもたらす可能性がある。
- 以上の問題意識に立って、本稿では、すでにマネジメント・アプローチに近い立場からセグメント情報開示を行っている国内企業のセグメント開示情報を利用したケース・スタディーを行った。
まず、総合素材メーカーB社が2006年3月期決算において行った「事業セグメント区分の変更」を取り上げ、区分変更に伴う修正再表示を利用することにより、それまで外部の会計情報利用者が窺い知ることのできなかった内部経営管理における経営者の意思決定プロセスの一部が「意図せざる形」で開示されてしまうことを具体的な例で示した。
一方、2002年3月期より、セグメント別の貸借対照表、損益計算書、およびキャッシュフロー計算書(各要約表)の開示を行っている自動車メーカーD社のセグメント開示情報を使い、セグメント別の事業価値評価に必要な各種の数値指標の算出を試みた。その結果、セグメント別の加重資本コスト(WACC)、セグメント別事業価値、セグメント別の目標フリー・キャッシュフロー成長率、およびセグメント別のキャッシュフロー投下資産利回り(CFROI)などの評価指標を算出することができた。
すなわち、D社と同程度にまでセグメント情報開示が拡充されれば、一般的に行われている連結(全社)ベースの事業価値分析と遜色のないセグメント別の分析が可能になることがわかった。 - 新会計基準の導入時期から判断して、2010年4月時点でわが国企業は、新会計基準に準拠した内部管理会計システムへの移行を完了していなければならない。つまり、未対応企業に残された時間は、実はそれほど多くない。また、すでにシステム対応が完了している企業にとっても、セグメント情報開示の充実が「意図せざる形」での内部管理情報の可視化を促進してしまう可能性を十分に考慮する必要がある。