Business & Economic Review 2009年10月号
【特集 環境制約下での新しい経済・社会】
急がれるグリーン・ニュー・ディール政策の断行-新たな経済・社会の構築に向けて
2009年09月25日 藤井英彦
要約
- このところ先進国のみならず新興国を含め環境政策が相次いで策定。地球温暖化問題のみならず、資源制約の視点からみると、環境政策は深刻度や影響度に加え、緊要度も高い問題。資源制約の克服に向けた新たな経済社会モデルへの転換は焦眉の急。
- 環境政策のポイントはa.エネルギー転換、b.国土利用転換、c.産業構造転換の3点。
(ⅰ)エネルギー転換
近年、自然エネルギー投資が急速に拡大。欧米に加え、中国やブラジル、インドなどBICs諸国が台頭。一方、分野別にみると最大は風力。次いで太陽光。近年の投資増加は唯一太陽光分野。自然エネルギーへの転換は今後中期的に持続する見通し。欧州では2020年を目標年と定め、さらなる投資が推進。翻ってわが国は低調。しかし逆にみれば、国内に大きな投資や市場拡大の余地。加えて近年、各国では原子力の見直しも進行。
(ⅱ)国土利用転換
欧州ではエネルギー消費効率のさらなる改善に向けた新たな取り組みが始動。典型がエコ・コンパクト・シティ。単に市街地をコンパクトにするだけでなく、コンパクト化をフル活用することで省エネを追求しようとする取り組み。ポイントは、都市計画や国土利用の見直し、さらにセーフティ・ネットの改革など総合的政策推進を通じたa.市街地の極小化、b.適切な都市集積、c.街路小売の活用、d.市街地への投資促進、e.公共サービスの効率的ネットワーク、f.効率的な公共交通システムの整備、の6点。
(ⅲ)産業構造転換
各国ではすでに成果も。端的な例が雇用。新エネルギー分野を中心に関連雇用が創出。さらに資源制約の増大は食糧問題と表裏一体。近年の第一次産業は化石燃料依存型だけに、転換が喫緊の課題。海外調達では有力な候補国はブラジル以外に見当たらず。一方、国内に増産余地。加えて、規模拡大や生産物の高付加価値化、基幹労働力の参入などEUの農業再生成功モデルに多くの示唆。
- 雇用とヒトづくり
グリーン・ニュー・ディール成否の鍵は担い手。総体として新たな経済社会への移行が見込まれるだけに新卒者依存では不十分。社会人の新産業・市場への円滑なシフトも焦点。そうした観点からみると、EUが2000年代に入り、成長戦略の柱として積極的に推進してきたヒトづくりを基盤とするフレクシキュリティー政策がポイント。
グリーン・ニュー・ディール政策は世界経済に新たな成長パスを生み出す壮大な成長戦略。わが国の場合、モノづくりの強みをフルに発揮し、現下の危機的な雇用経済情勢を好転させる起爆剤にも。直面する難局の克服に向け朝野一丸となった取り組みが切望される。