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コラム「研究員のココロ」

「~主義」人事管理制度の崩壊と人間観

2009年06月15日 大野 勝利


1.人事管理制度の変遷

 筆者がはじめて人事関連の職務を担うこととなった1980年代の後半は、それまで十数年続いていた「能力主義人事制度」の爛熟期であった。能力主義という言葉は、1970年代中頃より、民間企業において急速に拡大、導入された人事管理制度の基準軸となる考え方である。
 能力主義人事制度は、広がりつつあった年功・職階主義の弊害を抑えるため、主に以下のような特徴を有していた。

(1)社員の処遇決定基準として、社員個人の能力の高さに着目する。
(2)ポスト不足による人事処遇の「頭打ち」を打開するための機能を果たす。具体的には、社員個人の能力水準により定まる社内資格と、組織運営上の権限と責任の束であるポストとを、緩やかな関連性を保ちつつ、別個に運用できるようにする。
(3)能力伸張による処遇アップを制度として確立することで、人材育成に対する動機づけを強める。

 1990年代に入ってバブル経済が崩壊し、企業経営にもグローバル・スタンダードの考え方が積極的に導入された。人事管理の分野でもそれまでの能力主義人事制度が年功的運用に流れやすいものであるとして否定され、「成果主義人事制度」が主流となった。成果主義人事制度の形態・施策内容は多様であったが、共通していえることは、社員各人の貢献を時価評価する機能を強めることにあった。

2.「~主義」とは何か

 最近、“能力主義人事制度、成果主義人事制度の「主義」とは何か” という基本的かつ根源的な問いについて考えさせられる機会があった。高校生になった筆者の息子が、職業というものに本格的に興味を(やっと)持ち始め、私の職務内容を尋ねてきた時のことである。
 その時、~主義人事制度という言葉が多く出ることに息子は違和感を覚えたようである。私のように人事職の環境にどっぷり浸かってしまっている者は、自然に「~主義」を受け入れてしまっている。しかし若い世代には、日常的にはほとんど使わない「主義」という言葉のイメージが理解し難いようだ。
 「主義」という言葉を改めて辞書で確認すると“常にいだいている主張・考えや行動の指針”とある。そうすると、「~主義」の人事制度が世間一般に受け入れられていた頃は、社員に対するメッセージ、アプローチを画一的に発信でき、かつ、それが企業経営に対して効果をあげていた時代であったといえる。

3.人間観

 話題は変わるが、カウンセリングには複数の学派がある。
 フロイトに代表される精神分析学、ユングに代表される分析心理学、ロジャーズの人間性心理学などである。対象とするのは無論同じで、人間そのものである。また、カウンセリングの目的も“その人がその人らしく生きていく道に戻すための支援”であることに変わりない。
 それなのに、複数の学派が存在するのは、方法論の違い以前に“人間とは何か”という問いへの答えに差があることが主な原因である。例えば、フロイトは人間を基本的に性悪説で観ている。一方、ロジャーズは全ての回答は本人が有しているとの性善説に立脚している。
 つまり、「人間観=人間に対して抱いている基本的前提」が異なるのであり、どの学派が正しいのか、という議論は大きな意義はないように思う。どのような人間観でカウンセリングの対象であるクライエントを観るのかの違いがあるという事実が存在するのみである。

4.各企業の人間観

 「~主義」の「~」部分は、上述した人間観を示している部分であるといえる。例えば、能力主義とは、“会社は社員を、自己の能力を伸張することに最大の価値を認める存在であるという前提で観ている”という考え方である。
 20世紀には、産業界全体が統一した人間観を持ち得た。それ故に、能力主義人事制度、成果主義人事制度のように、共通の人間観に立脚した仕組みが、広く産業界で受容された。
 それが近年では、多種、多様、大量の情報が比較的簡単に手に入れられるようになり、個人の志向も複雑になってきている。企業は、それぞれ独自に、自らの組織に属する社員をどう観るか=「人間観」を、時間をかけてでも明確にする時期にあると思う。そして、その結果を言葉で形式知化することが大事である。
 社員一人一人の人間性、志向、生活環境等を把握して、個人単位での人間観を明確にすることが理想的であるが、その段階にまで企業全体で取り組むことは難しい。個人レベルの人材マネジメントは、職場でのリーダー各人の努力、力量に依存せざるを得ないだろう。

5.“当社の”人間観に立脚した人事管理

 会社が人事管理体系を再定義する局面に至ったとき、ブームを取り入れる形で「~主義」を指向するのではなく、先ず“当社としての人間観”を充分議論し、明確化するところからスタートすることが必要である。これからは、単に「~主義」といった出来合いの人間観を導入するだけでは人材を充分に活用し得ない。
 具体的には、当社の社員は、どのような人事・労務・職場環境を整えれば、
  - より高い貢献をしてくれる人間であるか
  - 職務遂行能力を高めようと動いてくれる人間であるか
  - 会社を愛してくれる人間であるか
等を、充分議論する必要がある。場合によっては、地域、職種、年代別等、小集団にグルーピングすることも必要であろう。

6.まとめ

 人間は、一定の刺激に対して同じ反応を示してくれる画一的な機械ではない。それでも高度成長期のように、社会機構が大きなトレンドをもち、一定の方向に動いている時代であれば、産業界に共通した「~主義」の考え方をもって人事管理をおこなうことは、間違いではなかった。
 しかしながら、“流れ”ではなく、“多発する渦巻き”のような近年の状況下で、全体のトレンドが見出し難いとき、人事管理において「~主義」を産業界共通で持つことは、個々の企業において不整合を起こしかねない。
 これからは、各社が自社従業員をどう定義するか=人間観を明確にした上で、人事管理の内容を個別に模索することが必要となろう。
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