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コラム「研究員のココロ」

今こそ「大学再生機構」の設置を

2009年08月31日 


依然として厳しい大学の経営環境

 日本私立学校振興・共済事業団の調査によれば(注1)、2009年度の地方の私立大学で定員に占める入学者の割合(入学定員充足率)は、定員割れの大学が570校に対して46.5%となった。この結果からは過去最悪の前年度から0.6ポイント改善しており、不況の影響で受験生の地方指向が増え回復傾向にあることが示されている。しかしながら、定員の50%に満たない大学が前年度よりも増加し31校となっており、経営環境の厳しさに変わりはない。仮に回復の傾向を期待するとしても、入学した学生が学費を負担しきれずに退学するケースが後を絶たず、文部科学省も全国の約1200の国公立私立大学・短大を対象に、経済的理由により中退した学生数や授業料滞納者の状況に関する緊急調査を始めている。各大学でも独自の奨学基金の整備や運用の柔軟化などにより対応を進めていることから、事態は深刻と受けとめざるを得ない。このように大学の経営環境は決して楽観できる状況にはないのである。これらをもう少し財務データから見てみよう。

大学経営の「メタボリックシンドローム状態」

 各大学等の平成19年度決算値(注2)では、帰属収入で消費支出を賄えない帰属収支差額(帰属収入-消費支出)がゼロまたはマイナスの学校法人のうち大学法人(大学を設置している学校法人)は527法人中182法人で34.5%、短期大学法人(大学法人以外で短期大学を設置している学校法人)は136法人中64法人で47.1%となっている。そのうち、消費支出が帰属収入を20%以上超過している法人数は39大学法人(7.4%)、9短期大学法人(6.6%)となっており、基本金組み入れ前ですでに消費支出超過の状態を意味している。単年度収支で消費支出超過となってもすぐに経営危機にあると評価することはできないが、経営が逼迫していることは事実であり、このような事態が今後も続けば、資金ショートを引き起こし、破綻など深刻な事態が想定されよう。
 こうした現象は単に財務的な指標の悪化を意味しているのではなく、その悪化をもたらす原因として、教育や研究活動の疲弊、学生募集の低迷、さらには組織的な弛緩による業務上のトラブルなど様々なリスクの発生が懸念されるのである。このようにリスクが複合的に潜在する状況を、筆者は大学の「メタボリックシンドローム状態」と呼んでいる。

大学経営の経営破綻に備えた国の対応

 もちろん、こうした事態を国も放置していたわけではない。まず昭和59年には学校法人の管理運営の組織及びその活動状況、財務状況等について実態を調査するとともに、必要な指導、助言を行い、学校法人の健全な経営の確保に資することを目的として、学校法人運営調査委員会が設置されている。この委員会は必ずしも今日の経営環境の極度な悪化を想定した体制とはなっていなかったため、平成15年には私学部内に学校経営指導室が、そして同時に私学事業団に私学経営相談センターが設置され、経営分析、相談体制を強化している。それ以降、次のような政策的対応がなされている。
 平成16年4月には、私立学校法が一部改正され、管理運営制度の改善、財務書類等の閲覧提供等ディスクロージャー制度の導入によって、遅まきながら企業並みの情報開示が求められるようになっている。
 平成16年9月には学校法人の会計、法務等に関し必要に応じ専門的な助言等を得るため、新たに公認会計士、弁護士等を「アドバイザー」として委嘱し、徐々にではあるが大学の経営環境悪化に即した体制が整えられつつある。
 平成17年5月には、文部科学省が「経営困難な学校法人への対応方針について」を取りまとめ、分析及び指導・助言等を通じ、主体的な改善努力を支援する方針を提示している。また日本私立学校振興・共済事業団に、学校法人活性化・再生研究会が設置されている。
 平成19年8月には学校法人活性化・再生研究会が、「私立学校の経営革新と経営困難への対応 最終報告」を提示している。そこでは具体的に大学が経営破綻を回避するために、どのような手順にて対応すべきかを標準化する方向性が示されている。
 一方で中央教育審議会の大学分科会(注3)では、大学相互間の機能別分化の促進に加え、「大学の適正規模の観点からの自主的な組織見直しへの支援」や「大学の健全な発展のための収容定員の取扱いの適正化」に触れられており、大学経営そのものに踏み込んだ形で検討がなされていることが窺える。

国民的課題としての「大学再生」への取り組み

 大学をめぐる文部科学行政は、設置認可基準等の事細かい規定に即した書類と体制の整備が求められ、規制緩和の流れの中でも慎重な対応がなされてきた分野である。しかしながら、一旦認可が下り完成年度を迎えれば、基本的には国立大学法人と学校法人とでは制度的枠組みが異なるとはいえ、経営の自立性がまず尊重されなければならず、明白な法令違反がない限り、文部科学省の統制には限界があることは否めない。
 ところが文部科学省の学校基本調査の速報では、今春の大学への進学率が現役・浪人合わせて50.2%と初めて5割を突破し、短大を含めた進学率も56.2%と過去最高となっている。設置認可を行った以上、事実上教育体系の最終段階に位置する大学の存廃を単に市場の原理に委ねて淘汰することには問題があるといわざるを得ない。
 メタボリックシンドロームとは筆者の理解では、内臓脂肪型肥満によって、様々な病気が引き起こされやすくなっている状態を意味している。そのリスクを確実に減らすためには、医師(=専門家)の診察を受け、適度な運動や生活習慣の改善(=組織的な無理・無駄をなくした業務の効率化や経営資源の適正配分など)によって、定期的なモニタリングによるチェック(=外部専門家による評価)が必要となる。場合によっては投薬による体質改善(=外部人材等の招聘によるマネジメントの一新)も考慮しなくてはならない。
 そこで、筆者は大学とはいえども市場のニーズを適宜汲み取り経営再建にスピーディに反映させるべく、国の支援のもと民間の財務会計、法制度、教育制度・カリキュラム、学校経営等の専門家を結集した大学版の産業再生機構である「大学再生機構」の設立を主張したい。
 産業再生機構は、株式会社産業再生機構法に基づき2003年に時限設立された特殊会社である。納税に加え、解散後の残余財産の分配により、さらに国庫に納付したため、国民負担は発生しておらず、諸外国からも注目されたことは記憶に新しい。その組織的特徴は、職員のうち公務員は10%程度で、残り全てが民間出身者で担われ、金融や法律の専門家から経営コンサルタントまで第一線の逸材を集めてきたところにある。
 その再生手法の特徴は、対象として有用な経営資源を有しながら過大な債務を負っている事業者に対し、事業の再生を支援するため、債権買取り、資金の貸付け、債務保証、出資等を行い最後までケアをし続ける「医師団」のごとき機能にある。この手法は大学を対象としても基本的には変わりはないと考えられるが、大学は財務データをはじめとした経営管理のための計数が正確に把握されていないことが多く、まずは全国一斉の「健診」を行わなくてはならないであろう。そこで「大学再生機構」には、大学問題に詳しい弁護士、学校会計に通暁した会計士、経営コンサルタント等のターンアラウンドマネージャーを集め、タスクフォース型の対応が必要となる。その上で、法人としての経営管理能力、教育サービスとしての付加価値度、学生募集の現状と見通し、法人としての財務基盤、地域との連携活動状況、そして研究活動・研究実績を具体的に分析する必要性がある。その結果、どの大学について、単体での再編、合併や統合の勧告、最悪の場合は廃止といった選択肢をいかに合理的に整えるかが重要となる。
 いずれの方策を採るにせよ、大学経営のコンサルティングを行っている経験から、資産運用の失敗などこれまでの大学経営に見られなかった負の情報が氾濫している状況を踏まえ、もはや一刻の猶予もない事態であることを大学関係の方々に強く訴求したいところである。
 そして同時に、最悪の事態として大学が経営破綻した場合の処理にかかる判断において何よりも留意すべきは、在籍する学生にとってはその大学は「母校」であり、そこで学び過ごす青春の4年間の想い出は何ものにも代えがたい一生の宝となるということである。
 いかなる状況にあるにせよ、大学の関係者はpriceless、即ち金銭的価値として量れないほどの貴重な学生たちの夢を育む学び空間と時間を最大限に尊重し、大学経営にのぞむべきなのである。

(注1)日本経済新聞2009年7月31日朝刊
(注2)「平成20年度版 今日の私学財政」(日本私立学校共済・振興事業団)
(注3)中央教育審議会大学分科会,「中長期的な大学教育の在り方に関する第一次報告-大学教育の構造転換に向けて-」(平成21年6月15日)
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