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地球温暖化対策促進のきっかけとなる上海万博

2009年08月17日 黒澤仁子


 先日、夏休みを取得して上海へ旅行をしました。多くの道路やビルが建設中であり、経済成長を実感するとともに、地球温暖化の進行に危機感を抱きました。
 近年、急速な経済成長に伴い、中国の温室効果ガス排出量が急増しています。2008年の米国カリフォルニア大学の調査によると、中国の温室効果ガス排出量は年11%以上増加しており、2010年までに2000年比6億t増加すると予測されています。また、2008年に公表されたGlobal Carbon Projectの報告書「Carbon Budget 2007」によると、中国は米国を抜いて、世界最大の温室効果ガス排出国となりました。中国国内の内訳を一人当たり排出量でみると、上海と北京の排出量は東京都を超えています。特に上海は東京都の2倍以上の温室効果ガスを排出しています。

 2008年、中国海洋局は「中国海面公報」を公表し、2008年までの30年間で中国沿岸の海面は平均90㎜上昇していると提示しました。これは世界平均より早い速度です。中でも上昇速度が著しい地域は天津地域と上海地域です。
 中国を含む開発途上国が主張するように、地球温暖化に対する先進国の責任が大きいのは確かです。しかし、今後、開発途上国が持続的に成長するには、自身が危機感を持ち、主体的に取り組む必要があります。

 このきっかけの一つになりえるものが、2010年5月1日から10月31日まで開催される上海万博です。きっかけになりえる第一の要因として、上海市が万博に向けて環境対策を進めていることです。例えば、昨年に開設された上海環境エネルギー取引所では、上海万博を「グリーン万博」と位置づけ、CDMに関わる排出権取引を開始することを予定しています。また「上海市の万博を迎える都市環境・管理600日行動計画綱要」では、地球温暖化を含む環境対策のキャンペーンや環境投資が行われています。
 第二に、上海万博のテーマの一つを地球温暖化とし、それに関する取り組みや展示が大きな目玉になっていることです。上海市では万博の観光客を約7,000万人、それに伴う温室効果ガス排出量を約900万tと予想しています。これに対して、150万tを省エネ技術の導入等によって削減し、残りの750万tは来場者によるオフセットを予定しています。また、万博初の試みであるベストシティ実践区があります。これは、都市の持続性を考えるため、環境等の課題に対して世界各都市が行っている解決策を提示するものです。チューリッヒ、リバプール、ベネツィア等、20カ国以上の展示が決定しています。ここでは、各都市の事例だけではなく、仕事や暮らしを体験することもできます。上海市も世界初のCO2ゼロ都市を開発し、提示することを予定しています。

 万博は、グローバル化の進展とともに、その意義が問われています。また、万博自体が環境に悪であるという意見もあります。建築家で東京藝術大学教授であった山本学治氏は、「万博とは、生活環境を修正する可能性のある方法を検証する場」と意義づけています。上海万博が、上海、中国、そして世界の経済活動や生活がより地球温暖化に配慮するきっかけとなるよう、万博の成功を願っています。
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