コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

クローズアップテーマ

気候変動は経済格差を拡大する

2009年07月08日 黒澤仁子


 2009年5月29日、南カリフォルニア大学の持続可能な都市センターは研究レポート「The Climate Gap」を公表し、気候変動が米国内の経済格差を助長させると報告しました。これまで、開発途上国の貧困と気候変動が関連することは認識されていますが、先進国内の格差問題が気候変動と関連するという認識が見受けられないことを考慮すると、先進的なレポートであると言えます。本レポートの要点は以下のとおりです。

【「The Climate Gap」の要点】
(1)気候変動の物理的現象は家計負担の増大、仕事喪失等の被害を招き、経済格差が拡大する。
・貧困層は現時点で所得に占める食料・光熱水費等の割合が大きく、気候変動によってそれがさらに拡大する。
・気候変動の物理的影響を受けやすい農業、観光業は、貧困層が多く携わっている。

(2)そもそも貧困層は気候変動への適応力が弱いが、(1)によりさらに弱まる。
・(1)により、貧困層は、猛暑を回避するエアコンや、避暑地に移動するための自動車を購入することがより困難になる。特に、貧困層はヒートアイランド現象が深刻な中心市街地に居住しているため、被害が甚大化する恐れがある。
・気候変動によって損害保険の保険料が高騰するが、(1)により加入することがより困難になる。

 以上より、気候変動は経済格差を拡大し、それが更なる貧困層の適応力の弱体化を招くことから、気候変動は経済格差の負の連鎖をもたらすと言えます。
 日本とアメリカでは人種や人口構成、政策が異なるため、必ずしも上記の研究結果の全てが日本に該当するわけではありません。しかし、複数の研究によって気候変動の物理的現象が日本でも発生することが予測されており、また、相対的貧困率がアメリカと同程度であり、かつOECD諸国の中でも高いことを踏まえると、日本でも気候変動と貧困の関係において、同様に深刻な状況が発生する恐れがあります。

 1980年代以降、日本では国内の経済格差が社会問題になっており、ナショナルミニマムに関する議論が政府レベルで行われています。日本における貧困の主な要因に、租税の所得再分配機能不全、不十分な社会保障制度、非正規労働者の低賃金化があげられます。
 政治哲学者のロールズは、「人間は自身の境遇が不確実な状況の中で、恵まれない人の厚生が最大になるように行動する」という、ナショナルミニマムの考え方の一つであるマキシミン原理を提唱しました。低賃金問題は誰にでも起こりえる問題です。そして気候変動の物理的現象は顕在化が予測されており、気候変動は経済格差の負の連鎖を生みます。今、我々は、他人事ではなく、真剣にナショナルミニマムについて再考する時期に来ています。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ