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「気候変動への適応」と自治体経営

2009年06月02日 黒澤仁子


 先月29日、温暖化影響総合予測プロジェクトによる成果報告書が公表されました。報告書によると、たとえ温室効果ガス排出量が削減され、温室効果ガス濃度が安定したとしても、気候変動による渇水、洪水や台風、土砂災害、生態系の崩壊、健康被害、食料不足等の物理的現象が発生し、その被害額は年間約11兆円にのぼると試算されています。さらに、本報告書の特徴として、日本における地域別の被害予測が、前回の報告書よりも詳細に分析されている点が挙げられます。地域別に気候変動の物理的現象をまとめた研究はこれまでも見受けられましたが、本報告書は定性的な被害予測が地域別にレベル分けされています。

 地域別の被害予測は、気候変動に適応していく上で非常に有益な情報といえます。なぜなら気候変動に適応して快適な生活を送り、また持続的な企業経営を行うためには、今後どこに住むか、またはどこに本社・工場を立地するかということが重要になるからです。筆者も、仕事柄ということもありますが、気候変動の物理的現象による被害に対する備えが整備されている、災害に強い地域に住みたいと考えています。

 経済学者のティボーは、住民は自身が選好する公共財を供給する自治体を選択して居住するという「足による投票」理論を構築しました。これまで自治体は福祉や教育サービスの充実によって定住志向を促してきました。しかし、今後気候変動がさらに深刻化するにしたがって、当該地域で発生する気候変動の物理的現象、そしてそれに対して実施する自治体の適応策もまた、どの地域に定住するかを住民が選択する基準になる可能性があります。以上のことから、今後、自治体は気候変動への適応策を検討し、実施することが行政経営の視点から重要であると考えられます。

 では、それに対して自治体は何をすべきなのでしょうか。第一に当該自治体にはどのような気候変動の物理的リスクがあるのかを把握し、また情報公開する必要があります。これによって優先順位を付けてリスク管理を行うことができます。また情報公開により、住民は適切な備えを講じることができます。第二にソフト、ハード面からの対策を実施する必要があります。

 自治体が地域における物理的リスクを特定・分析・評価し、気候変動への適応策を組み込んだ自治体経営を進めることにより、地域の価値が向上する具体的な取り組みが増えていく事を期待します。
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