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アジア・マンスリー 2009年4月号

大幅に減速するアジア経済、中国は7.5%の成長

2009年04月01日 向山英彦


2008年秋口以降の輸出の急減速に伴い、アジア各国では景気が急速に悪化している。2009年はNIEsでは大幅なマイナス成長を余儀なくされる。中国は内需の拡大に支えられて7.5%の成長になるだろう。

■急減速する輸出
アジア経済は2008年半ばまで比較的底堅く推移してきたが、先進国の景気後退の影響を受けて年後半から減速傾向が強まった。とくに秋口からは輸出がかつてないペースで落ち込んだことにより、製造業生産が前年比マイナスに転じるなど、景気は急速に悪化した。

経済の対外開放度の高いNIEsでは、10~12月期の実質GDP成長率が香港▲2.5%、韓国▲3.4%、シンガポール▲3.7%、台湾▲8.4%と大幅なマイナス成長に陥った。輸出の急減速とそれに伴う固定資本形成の落ち込みに加え、民間消費が冷え込んだことによる。これにはインフレと交易条件の悪化に伴う所得減が影響している。

景気の悪化に伴い失業率が上昇しており、韓国では2月に3.6%(前年同月は3.1%)、台湾では5.3%(前年同月は3.8%)となった。

ASEAN諸国をみると、インドネシアでは総固定資本形成と民間消費が、フィリピンでは民間消費が底堅く推移したため(右下図)、10~12月期の実質GDP成長率は5.2%、4.5%となった。フィリピンでは海外就労者からの送金が消費の拡大を支えている。

他方、タイとマレーシアでは輸出と総固定資本形成の急減速が響き、▲4.3%、0.1%となった。タイでは不安定な政治情勢が続き、民間消費が伸び悩んでいたことも成長率の低下につながったといえる。

また、近年高成長を続けてきた中国とインドでは内需(民間消費、インフラ関連の投資)が底堅さを維持しているものの、増勢が鈍化した上、輸出が減速したため、10~12月期の成長率はそれぞれ6.8%、5.3%へ低下した。中国では2008年半ば以降、政策の重点が成長の維持に置かれ、内需振興策が相次いで発表されているが、足元では輸出の減速傾向が強まるとともに、輸出企業の倒産により失業者が増加するなど、経済環境は厳しさを増している。

 このように、アジアでは景気が急速に悪化している。その一方、消費者物価上昇率は著しく低下し、2月は、中国とタイがマイナス、台湾は1%台となった。2008年4月以降20%台が続いていたベトナムではインフレ抑制策の効果が表れ、14.8%へ低下している。ただし、韓国ではウォン急落の影響により、下落ペースはやや緩やかである(2月は4.1%)。

1月に1ドル=1,300ウォン台で推移していたウォンは2月に急落し、3月には一時1,600ウォン近辺まで下落した。中東欧諸国の金融危機を契機にドル資金の確保とリスク回避志向が一段と強まり、韓国からの資金引き揚げが加速したためと考えられる。日本の金融機関が期末を控えて、資金を引き揚げるという「3月危機説」も市場の不安感を高めたといえる(ウォン急落をめぐる動きに関しては「韓国」のパートを参照)。

■大幅に低下する2009年の成長率
2009年のアジア経済は2008年を大幅に下回る成長率となろう。

インフレ圧力の緩和を受けて各国で金融が緩和されるとともに、政府支出の拡大や減税など景気刺激策が実施されていくであろうが、先進国経済がマイナス成長となる(2009年は米国が▲3.0%、ユーロ圏は▲3.7%の成長になると予測)ほか、ロシア、ブラジルなど新興国の成長率も著しく低下するため、これまで「成長のエンジン」であった輸出の回復が当面見込めないからである。また、輸出の低迷により設備投資も2008年を下回るであろう。このため、景気の下支え役として期待されるのは公的固定資本形成と民間消費であり、これらの増勢の違いが各国の成長率格差となって表れてこよう。

NIEsではゲタのマイナス幅が大きいこともあり、2009年は大幅なマイナス成長を余儀なくされるであろう。とくに台湾では雇用環境の悪化により民間消費の回復が遅れる上、主力輸出産業である液晶パネルと半導体における需要回復が当分見込めないため、マイナス5%程度の成長になるものと予想される。ASEANはタイがほぼゼロ成長に、輸出依存度の高いマレーシアはマイナス成長になるものと予想される。他方、インドネシアとフィリピンでは民間消費が下支えとなり3%前後、ベトナムでは民間消費と投資の拡大により5%程度の成長となろう。

世界経済が減速するなかで、中国経済回復への期待が大きくなっている。対中輸出依存度の高い台湾、韓国などでは、中国経済の減速に伴い対中輸出の落ち込みが全体を上回っている。中国政府は4兆元の景気対策効果と5,000億元の減税実施などにより8%の成長をめざしているが、外需の急激な落ち込みを考えると、7.5%程度の成長にとどまるものと予想される。

インドでは固定資本形成(インフラプロジェクト関連)が景気の下支え役になると期待されるが、財政面の制約により大掛かりな景気刺激策の実施が難しいため、5%程度の成長となろう。

各国政府には、景気減速の影響を最小限に食い止めるために迅速な景気対策の執行のほか、雇用情勢の悪化に対応したセーフティネットの拡充(失業保険適用期間の延長、再教育や技能習得支援など)が求められる。また、アジアの金融システムは他地域と比較して健全性を維持しているとはいえ、景気の悪化に伴い不良債権の増加が予想されるため、金融システムの安定性の確保に注力することも重要な課題となろう。
厳しい環境が続くなかで、各国政府の手腕が問われる1年となろう。
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