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コラム「研究員のココロ」

地域再生に向けた「平成の土地開放」

2007年11月12日 日吉淳


1 都市再生と地域の活性化

 小泉内閣時代、都市再生が主要な政策として進められた結果、現在の不動産の市況は活性化しています。
 東京などの大都市圏においては、工場跡地や未利用公有地、低層の周密住宅地などの用途転換が進められ、都市の活力が生み出されています。たとえば、六本木ヒルズは低層の周密住宅市街地が、ミッドタウンは防衛庁の跡地が、豊洲や品川に数多く建設されているタワーマンションのほとんどは工場跡地がそれぞれ次々と再開発され、土地の用途転換が進みました。
 これは、土地の新陳代謝を滞らせてしまいがちな重厚長大産業や公共セクター、都心部の低利用地の個人地権者などから、土地のポテンシャルを十分に活用しようとする開発業者やファンド等の主体へと、土地という“資源”が再配分されたことを示しています。土地本位制の文化がまだ根強いわが国においては、土地のポテンシャルを最大限に発揮することこそが、地域の活力を生み出すための大きなインパクトになると考えられます。

2 地方都市における地域再生の課題

 一方、活性化に頭を悩ませる地方の中心市街地では、なかなか大都市のようにはいきません。中心市街地の個人店舗所有者や経営状況が悪化した民間セクター、多くの公共施設を抱えた地方自治体が土地を塩漬けにしており、資源の再配分がうまく機能していません。このことが、地域の活性化を阻害している要因であると筆者は見ています。地方が大都市と同じような用途転換を行うことは困難かも知れませんが、土地の最適配分を地方でももっと機能させることができないのでしょうか。
 地方都市の中心市街地においては、後継者がいない商店や空き店舗、撤退した大型店の跡地が大きな問題となっており、これらの土地が有効に活用されないことが中心市街地活性化の大きな妨げになっていることが多いと思われます。しかし、古くからの商店主は土地への愛着などから土地を手放したがらないケースが多く、大型店跡地についても売却価格が折り合わない、買い手がなかなか見つからないなどの課題がボトルネックになっています。

3 新たな「土地開放」政策の提案

 そこで、従来の土地に対する発想を転換し、スムーズに土地の再資源配分がなされる手法を導入する必要があります。筆者は、所有者に土地への執着があることと、中心市街地の土地価格が高いことなどがネックとなっていることを勘案して、土地の所有と利用を分離することが有効な解決策であると考えます。ここでは、借地権活用と証券化の2つの方法を提案したいと考えます。

(1) 借地権活用型
 借地権を活用した市街地活性化への取り組みは、すでに丸亀地区の中心市街地活性化でも類似手法が導入されています。具体的には、各商店の所有者は土地を保有したまま店舗を売却し、買い手の事業主体に定期借地権を設定します。土地は人手に渡らず、利用は商店街再生を行う事業主体が自由に行うことができ、かつ、事業としての投資額を抑えることが可能となるためハード面での中心市街地の再生を円滑に進めることが期待できます。商売を続けたい商店主は、再整備された商業施設内にテナントとして入居し、自らの借地料収入をテナント賃料を相殺すれば、新しい施設で低コストでの店舗運営が可能となるというメリットもあります。

(2)証券化型
 証券化型については、まだこれまで取り組まれた事例はありませんが、地域の商店所有者が共同で不動産ファンドを設立し、土地と建物を現物出資することを基本とします。まちづくりの事業主体はファンドに投資し、運営者としてハード面での地域再生を行うことになります。当該手法は土地を手放すことになるため、感情的な抵抗が強い恐れもありますが、ファンドのオーナーとして間接的に土地を所有することになるので、代替わりした若手経営者にとってはさほど抵抗がないのではないかと思います。商売を続けたい商店主は、借地型と同様に、ファンドからの運用収入をテナント賃料と相殺すれば、新しい施設で低コストでの店舗運営が可能となります。

4 地域再生に向けて

 上記手法は新たな市街地整備を誘導する手法としては有効であると考えられますが、やはり、地域を再生するのは個々の店舗であり、地域の商業の担い手であるといえます。
 商店主は郊外型のロードサイド店舗と競合するのではなく、差別化を図る視点が重要であり、たとえば公共施設との複合化により利便性を強調したり、商店街全体の景観や環境整備をすることで、「たまり場」的な空間を演出するなど、郊外型の商業集積にはない魅力づくりが必要です。そして、魅力的な空間を面的に整備するためには、ここで紹介したような土地の制約条件から開放される新たな事業手法の導入を検討することが必要ではないでしょうか。
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