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大学の教育サービスとは
2008年07月17日 中原隆一
大学は学生に対して様々なカリキュラムや教育手法等を用いて教育活動を行うことが基本となる教育サービスですが、その遂行にあたっては直接の教育活動だけでなく、学生を教育面と生活面で支援し、適切な環境整備を行うことにも今後は注力が必要と考えられます。たとえば学習上の相談等の学習支援、奨学金・住居等の経済的支援、医療やカウンセリング等の健康支援、講義以外の各種課外活動支援、就職支援やキャリア形成支援等が、教育支援や生活支援のための環境整備の主な内容として想定されます。ハンディキャップのある学生への支援等も当然含まれます。支援方法にはアドバイスや助言等のソフト面、施設や機器設備等のハード面の両面が含まれると考えられます。
これまで大学では、一定の内容や水準を備えた教育カリキュラムを整備し、それらのカリキュラムを構成する各学問分野の研究者が講義をすれば、大学の教育サービスは完結するという認識が強かったと思われます。しかしこの方式は、学生側に学問内容に対する知的好奇心、講義・実験等を理解する学力、学習に集中できる環境や精神状態等が備わっていることが暗黙の前提となっていると思われます。
しかしながらユニバーサル時代を迎えて、むしろこれらの前提条件に当てはまらない学生が入学者の主体となってきています。そうなると、前述した教育カリキュラムの提供整備と研究者による講義だけでは学生を満足させることや教育効果を高めることが困難になります。もちろん、直接の教育活動の改革・改善としてカリキュラムの改革や講義手法の改善等の様々な取り組みが必要であり、既に各大学で行われています。しかしながら、これらの取り組みだけではユニバーサル化が進み、多様化する学生への対応としては不十分であり、教育活動以外の教育支援や生活支援のための環境整備が必要と考えられます。カリキュラムや講義等による教育活動だけを教育サービスと考えるのではなく、前述したような様々な教育支援や生活支援の環境整備も含め、教育サービスとしてとらえる必要があります。
これらの環境整備の検討においては学生にどのような学生生活を過ごさせ、どのような人間形成・人格形成を目指すかが基本理念として確立されていなければならないと考えられます。これは教育カリキュラムの検討において、どのような知識・能力を学生に身につけさせるのかが出発点となるのと同様です。その意味でこれらの施設やスタッフ等の整備内容は、大学全体の教育方針を表しているものと考えられます。
一方で大学淘汰の時代の中で個々の大学が自らの運営方針や保有資源に基づいて、教育サービスの差別化に取り組むことが求められています。その際、これらの教育・生活環境の差別化が重要な要素になってくると考えられます。なぜならカリキュラムや教育手法など教育内容の特色は学生にとって直接見えにくい内容ですが、各種施設整備やスタッフ体制等は、学生が直接五感で感じやすく、訴求力が強い内容と考えられるためです。
このように教育支援や生活支援のための環境整備はこれまでのように直接の教育活動の付属物的な事項としてとらえるものではなく、教育活動以外の付加価値として各大学の教育サービスの差別化につながる事項と考えるべきです。各大学は自学の教育方針に照らし、他大学との差別化を踏まえて、これらの環境整備を進めていくことが望まれます。