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7月2日 学生募集戦略の要諦(ようてい)

2008年07月02日 吉田 賢一


 最近の電車やバスの車内広告では、色鮮やかでセンスが良くキャッチコピーに溢れた大学の広告が一般消費財のものよりもパワーを持っています。中にはハンサムで知的な学長先生を前面に出した大型広告板を掲示する有名私立大学もあります。また、「アドトレイン」では、大学広告一色というパターンもあり、オープンキャンパスを控えて各大学とも様々なアピールを行っています。これらの動きはホームページなどのコンテンツとも連動しています。

 一方、こうした一般的な情報発信に対して、従来からある「足」で稼ぐ「営業活動」も盛んです。学長や理事といった学事や経営の責任を担うトップマネジメント層や入試担当の教職員だけではなく、それ以外のスタッフも動員しての高校めぐりをはじめとする入試関連業務は、今や国公私立を問わず年中行事となっているといっても過言ではないでしょう。また、高校には全国の大学から膨大な資料やDVDなどが送られ、高校の進路指導の先生方にとっても、大変に「暑い夏」となるのです。
 一見華やかな「入試行事」のようですが、それは裏を返せばかなりの尖った特徴を魅せない限り、どのライバル大学も参入しているため、結果として埋もれてしまう可能性が大なのです。こうした現状を鑑みるに、入試戦争に勝つにはどのような妙案があるのでしょうか。

 ある大学の入試のプロの方とのお話の中で、小職と意見が一致したのは次のとおりです。
 まず、第一に学生募集は、大学の「経営戦略」の根幹であり、広報・地域貢献・課外活動など、ありとあらゆる学外に向けた働きかけが結集する取り組みとなるということです。いわば経営陣を筆頭に「全学全スタッフが入試担当である」との心構えをもっての取り組みが大切となります。また、戦略的思考は目先のことを追うのではなく、一定の時間をとって、持てる「石」で確実に陣地を構築することを大切にします。したがって今年度の入試の基本的な体制構築とツールの整備は、その前の年度に終えていなければ意味がないのです。1年単位で物事を考える大学特有の体質は、思いっきり改めたいところです。

 第二に、オープンキャンパスでのターゲットを明確にするということです。当然、受験生がメインですが、彼らの進路決定に影響力のある高校の先生方、そしてご両親に対して彼らがもっとも求めている情報を明確にし、さらに当該大学の特徴やメリットを端的に示すことが重要なのです。人気教授の模擬授業も魅力的ですが、自分たちの子どもを将来、どのように導いてくれるのか、つまり教育という大学が提供する「サービス」の「品質保証」をいかに明快に示せるのかがポイントではないでしょうか。

 第三に、魅力的な入試制度の導入とエンロールメントマネジメントです。すでに推薦やAO入試が盛んとなっています。いち早く導入した私立大学のほか国公立大学でも20年度入試では155大学543学部が実施しています。その功罪をここで論じることは避けますが、少なくとも限られた18歳人口のマーケットに対して、いかに大学の教育などの品質を落とさずに多様な人材を確保するかといったことは極めて重要な課題です。少なくとも従来のように勝手に受けなさい、の姿勢では話になりません。東京大学ですら説明会を開催する時代だということを改めて認識したいところです。

 しかし、多様な人材という軸と学力という軸は必ずしも相関せず、むしろ相反することすら指摘されています。そうなると入学後の基礎学力練成やリメディアル教育のあり方が重要となり、さらには4年間の学園生活と将来を見通したキャリアプランニングまでにも配慮したエンロールメントの考え方が必須となるのです。つまり、いったん入学したら後は自己責任、ではなく卒業後のフォローも含めた長い時間軸で捉える取り組みがポイントとなるのです。入試はその露払いにすぎません。

 ところがそれではいくらでも人や資金が必要となります。ではどうするべきか。大学の規模や経営状態によっても異なるとは思いますが、OBのネットワークやスポンサー企業の支援、さらには補完し合える他大学との連携が考えられます。連合大学院構想などは各大学の独自性を生かしつつも、連携することによるスケールメリットで学生対応をヘッジすることが可能となるのではないでしょうか。

 そして最後に何といっても、大学という公共財の社会的意義を生かすための、学長や理事長の熱い想いが大切です。特に私立は歴史の長短の違いはあれ、建学の理念があります。これを抽象的なアドミッション・ポリシーで語るのではなく、本学に入った場合、いかなるメリットがあるのか、将来に向けた品質保証を行う各種のサービスをまとめた「マニフェスト」として提示することが大切だと考えます。その点では法人化した国立大学にもチャンスがあります。
 過当競争についてはいずれかの段階で公的な介入による整序化が必要とするのが理屈ですが、まずは個々の大学がそれなりの個性を生かして輝いて欲しいと思うのは筆者だけではないでしょう。
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