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大学の寄付・募金活動

2009年04月23日 中原隆一


 大学において財務基盤の強化は大学運営を左右する重要な問題であり、各大学では収入の確保拡大に向けた取り組みが様々に行われている。その中で長期的に安定した収入源として寄付金が今後重要になってくると考えられる。大学の従来からの主要な財源である学生からの納付金は学生数が減少することが必至であり、国や自治体からの補助金も、財政状況から縮減に向っており、新たな資金源が必要になっている。これらの財源以外では委託研究等を通じた外部資金が金額的にも比較的大きく今後の主要財源として期待されるが、資金提供者である企業等の業績等に左右され、使途も特定されて偏りやすいという難点がある。
 それに対し寄付金は一般に個人主体であることから、金額が比較的安定しており使途等の制約も比較的緩く、他の財源に比べ安定性のある固定的な資金調達手段として重要な存在と考えられる。

 このように寄付金を重要な財源として考えることは、現状では、わが国の大学ではまだ普遍化していない。国公立大学は国または自治体の資金で運営されていた経緯から、一部の大学は基金等創設しているものの、大学への寄付金に対して寄付があれば対応するという受け身的な対応がまだ多いと推測される。一方、私立大学は寄付金募集に建学当初から取り組んでいて、周年行事等のキャンペーン等では積極的に活動しているが、経常的に専門部署を設置して取り組んでいる例は少ない。
 寄付金は委託研究等と異なり、特定の研究活動や研究テーマと必ずしも結びつく必要はなく、研究成果等の対価を原則求めない。寄付者は反対給付を求めて寄付するのではなく、大学への評価と支援の意思を寄付に託していると考えられる。つまり寄付金は大学が教育研究活動を通じて社会に提供する様々な付加価値に対し、寄付者(=社会)が評価し支援する意向表明の結果と定義される。また寄付は直接的には対価の必要のない資金であるが、非常に緩やかな関係性の概念で言えば対価性が認められ、大学の教育研究活動が社会的に評価理解されて始めて寄付という行為が生じる。よく何周年という寄付キャンペーンが行われているが、単に大学が何周年であるという事象に対して寄付が集まるのではなく、何周年に至るまでの永い大学の営みが評価されて寄付が集まると認識するべきである。
 このような考え方に立てば、寄付・募金活動は大学全体の存在価値を社会に示してその評価の現れとして資金を得る活動と考えられ、特定の部門だけが頑張ればよい活動ではなく、大学経営の根幹に関わるテーマとして全学的に取り組まれるべき活動である。

 大学の存在価値を社会に示すためには大学の行う教育・研究活動を適切に社会に知らせていくことが不可欠であり、大学は自らの教育研究活動を可視化し、明確に社会に伝えていくことが求められる。そのためには社会とのコミュニケーションルートの確立と知らせるべき活動内容を整理しておくことが前提となる。
 このように大学において寄付・募金活動を適切に行おうとすれば、寄付や募金の手法等だけを検討するのではなく、まずは大学経営の根幹に関わるテーマとして全学的に取り組むこと、そして寄付を導くための社会との接点拡大や情報提供内容の拡充に取り組むことが重要かつ不可欠と考えられる。
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